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「……いや、それ今日言う!?」
伊織が語気を強める隣で、後藤も溜息混じりに「そうだなあ……」と呟く。
「うーん、やっぱそうなるよなぁ。ちょっとそうかなぁとは思ったんだけどなぁ」
一気に緊張感が解ける中、打ち明けた坂本本人ものんびりした口調でそう口にする。
「なんか自分で言うのもアレだけど、今日俺の結婚報告会だからね!」
大学時代同じバンドメンバーであり、しょっちゅう一緒にいた仲間たちだが、30代半ばともなると仕事や家庭もあり全員が集まることはそうそうない。そんな彼らがこの日久しぶりに揃ったのは、最後の独身者だった中山伊織がとうとう結婚することになったからだった。
「完全に俺のめでたさ霞んだわー」
「まあ、でもほら、言うとしたら確かに全員揃った今日が都合良いだろうしさ。坂本だって言いづらかったと思うよ?な?」
こういう時に戸村が場をとりなすように声をかけるのは、昔から変わらない。
「まあ、もちろんわかるんだけど、一応言っておかねばと思ってな。それで、近いうちってどのくらいなんだよ」
「余命宣告って絶対じゃないみたいだけど、とりあえず治療しなきゃ一年くらいだってさぁ」
「一年!?えっ、マジで?」
「マジなんだよなぁ、これが」
二人のいつも通りのやり取りを冷静に聞いていた後藤が口を開く。
「奥さんには?」
その質問の内容に中山と戸村も固唾を呑んで返答を待っていると、一呼吸おいてから坂本が答えた。
「うん、もちろん言ってある」
「そうか、坂本のとこも結婚したばっかだもんな……。何年だっけ」
戸村は、ウェディングドレス姿だった坂本の奥さんを思い浮かべた。
「ばっかでもないけど。もう四年かなぁ」
「あれ、そうか。じゃあ、披露宴で演奏してからもう四年経つのか……早いな」
「そう、だから一年なんてあっという間だよなぁ」
坂本がまるで他人事のように呟くと、それぞれが何かを思い、再び沈黙が訪れた。
そんな彼等の事情などお構いなしに、集客のピークを迎えた店は益々賑わいを増していく。
四人が大学を卒業してから十一回目の春。こうして久しぶりの会合は良いニュースと悪いニュースが挙がり幕を下ろすこととなるが、とにもかくにも彼らの中にはっきりと刻まれたことがあった。
それはわかっていたつもりでも、どこかでまだ自分とは切り離して考えていたのかもしれない。しかし――
どうやら俺達は本当に死ぬらしい――伝聞。
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