まともじゃない

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まともじゃない

「この学校は大きいからな迷っても仕方がないよ」担任の松下という教師が笑いながらをれを先導していく。あの詩織という女のせいで、結局初日より遅刻してしまった。あの女が指さした先と職員室は全くの逆方向であった。 「なんだか性格の悪い女がいますね。職員室の場所を聞いたら出鱈目な場所を教えるし・・・・・・」不貞腐れたように俺は言い放つ。 「あはははは、そうなんだ。まあ、この学校には生徒が沢山いるからね。色々な子がいるよ。悪戯好きな子が沢山いるかもね」無責任に笑う。そんなに生徒が多いのなら二度とアイツらに出会わない事を俺は神様にお願いする。ちなみに、実家は代々仏教である。 「君はどこから転校してきたんだったかな?」唐突に質問が飛んでくる。俺のプロフィールというか、情報は事前に知っている筈であろう。 「ああ、東京からです。」 「名前は、逢坂なぎさ・・・・・・君だったね・・・・・・・」松下は、名簿のような物を見ながら確認する。どうやらこの教師は、暗記能力が低いようであった。まあ、生徒の数も多いので一人一人の名前を覚えるのも大変かもしれない。確か、一クラス百人以上の生徒が在籍すると言っていた。 「ええ、そうです」 「ふーん、素敵な名前だね。ここが君の教室十三組だ」そうこうしているうちに教室の前に到着する。それにしても十三って、縁起の悪い数字だ。  松下が教室のドアを開けて、中に入っていく。その後ろを俺もついていく。 「おはよう!今日は転校生を紹介する。みんな仲良くするように!転校生の東京みさき組君だ」いや、あんた誰の紹介してるの・・・・・・・。 「いいえ、逢坂なぎさです!」俺は、素早く訂正する。教室が異常なほどだだっ広く扇状に広がり、後方はせり上がっているようになっている。まるで小さなコンサート会場かと思わせるような感じであった。 「あっ!!」女の驚く声がする。なんだか嫌な予感がする。それは、あの詩織という女と同行していた、もうひとりの女であった。彼女は立ち上がって驚きの声を上げている。その隣には案の定、詩織という女もいた。神様、さっそく俺の願いを却下されるのね。 「どうした。高原?」松下は高原という女を見て問いかける。 「い、いいえ、なんでもありません・・・・・・・」そういうと高原は着席した。もう、なんだか悪い予感しかしない。 「そうだ、東京君。上段の空いている席が君の席だ!」松下はなぜか恰好を付けて俺の席らしき場所を指さした。 「逢坂です!」こんな記憶力の悪い奴に教師が務まるのかと権頭に心配になってきた。席に移動するには机の間の階段を上って行かなければならなかった。まるで映画館にでも来たようであった。 「よろしく!俺、原口な!!」俺の隣の席に座る男子が愛想よく声をかけてきた。 「ああ、どうも・・・・・・」実は俺ってば、少し人見知りのほうで、積極的に来られると少し躊躇いてしまうんよ。 「あの、高原達と知り合いなのか?」原口は高原という女の反応を見て、そう感じたようであった。 「いや、別に知り合いって訳では・・・・・・・」俺は認めたくなかった。 「ああ、それなら良かった・・・・・・・。アイツらには気を付けろよ。まともじゃないから・・・・・・・東京君」原口は窘めるように注意した。しかし、その真意を俺が知ったのは放課後になってからであった。ちなみに、俺の名前は逢坂です。
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