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僕は楽器提供に作詞をし、応募することを始めた。バラードの曲に当て嵌めた処女作はアイドルグループがテレビで歌った。業界で話題を呼び次第にオファーが来るようになった。
それからスタジオパズルを辞めることにした。林くんは社会人になっていたみたいだけど土日にたまに個人練でまだ遊びにくる。あの妄想ロマンスカーをたまたま聴いてしまった以来、しっかり閉じられた部屋からは音が漏れてこない。
パズルを辞める日が近いてきた時、僕は意を決して林くんに尋ねた。いつも個人練で何叩いてるのですか?と。
彼は、AZUMAと答えた。
AZUMAってバンドですか?ととぼけた僕に対して彼は少し語り始めた。
「AZUMAは活動辞めてしまったのですが、俺はいつ聴いても色褪せないんですよ。初めて聴いた感覚が。
切ない歌詞とメロディに対して曲調が合ってないようで合ってる。最後にAZUMAが2人で活動してたみたいな、匂わせがあって納得しましたね。
ボーカルがいないのも魅力の一つっす。歌ってほしくないっていう珍しいバンドなんですけど、無理っすよ、あんないい歌。コピーしたくなるのがバンドマンです。そんでもって何故かドラムだけいつも手抜きなのもドラマーとして歯痒くて、俺だったらこうするっていつもアレンジして、それが楽しくて辞めれないんすよね〜って長々とすんません!ついつい…」
ねえ東堂。
バレてる、ドラムが適当なの。
僕たちの曲って言ってたけど、東堂がいなくなってから僕は少し考えが変わってきたかもしれない。
もういない東堂が作ったこの曲達。
みんなに知って貰えば、東堂はまだこの世にいるような感覚になるんだよ。
いつかさ、僕が納得のいく形を見つけたら、AZUMAの曲をまた世に出してもいいかな。
「…ありがとう、林くん。」
「え?」
「…いや、なんでもないです。」
作詞家は僕にとって納得している生き方のひとつ。でもこの仕事は、僕の孤独な世界を作りあげた。
命ってなんのためにあって生きるってどういうことで、僕の死はいつなんだろう。
答えが出た時、僕は作詞家を卒業したい。
それが死ぬまでかもしれないけどね。
まだまだ答えがでるまで時間がかかりそう。
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