線香花火

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大学4年生のとき、ネットに曲を作って誰かが歌って、っていうのがすごく流行っていた。当時軽音楽部で趣味程度にバンドをやってた僕は、一緒にやってたギターの東條に誘われて曲を一緒に作ってはアップロードをしていた。東條は作曲、僕は作詞と主にメロディ。ただただ楽しかった。見てくれた人がコメントしてくれて、再生回数がどんどん伸びてきて、僕たちの名前はネットの中で注目されるようになった。 僕は社会に出た後も、趣味として東條と曲を作って楽しくやりたかった。僕は東條のことが好きだった。そもそもゲイと思って生きてこなかった僕は戸惑ったけど、その気持ちすら音と歌詞に込めることで想いを昇華していた。 東條には彼女がいて、この気持ちは伝えることは一生ない、だからこそ行き先のない育った心を歌にこめていた。それで満足だった。 切ない歌詞なのにどこか力強い曲調が僕たちのヒット曲でもあった。 卒業して数日後に、東條は居なくなった。 言葉通りこの世から、居なくなってしまったのだ。 即死。交通事故だった。 あの日から僕は、生きるってどういう事なのか分からなくなった。東條が死んで枯れるまで涙を流して、内定貰った会社に行っても仕事を覚えられず3ヶ月で退職した。 生きてても、いつか死ぬ。何のために生きるのか。仕事をして経済を回す、お金をもらう。お金のために生きるのが命?65歳で定年迎えて、その後死ぬまで少しだけ自由に生きるのが人生?その時には何ができる? 死は寿命まで待つとはかぎらないじゃないか。いつ死んでもおかしくないじゃないか。世の中危険だらけだ。何をして生きたら、どんな時に死んだとしても僕は満足なのか。 人の、人生とは、なんなのだ。 僕はきっとゲイだ。 東條を好きになってから、戸惑ったけど凄く胸にしっくりきた。彼女も居た事ない、東條を好きになる前、誰か好きだとか思った事もなかった。ああ、これが好きなのか。って本当に衝撃を受けた。だから誰かと結婚して子供を作って、僕がお父さんになって。家族と過ごすビジョンが根本的に、ない。
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