線香花火

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ニートになってから僕はずっと家に引き篭もって。何もやる気もおきず、ただ命や人生について考えていた。それを文字に起こし始めたのが1ヶ月後。日記のように文章を書くことにした。 僕の気持ちは歌で昇華する、あの時のように。 ニートから半年後、お金がなくなり僕はバイトを始めた。生きるためには金が必要だった。金のために生きる、生きるためには金がいる。分からないまま僕は昔からお世話になっていた音楽スタジオの店員になった。 「お電話ありがとうございます。スタジオパズルです。…ー 個人練習のご予約ですね、ご利用日時を教えてください。…ー 本日の17時ですね。空いておりますのでお取りいたします。それではお名前とお電話番号を………」 いつも電話に出てくれたスタジオの店員さんのように僕が話すだけ。スタジオの使い方も分かる、楽器や専用機材の使い方もわかる。ある程度は簡単だった。 スタジオは予約制だから仕事も組み立てやすかった。予約がないときは清掃や事務作業とかあるけど、あまりにも時間が余ったときは適当に音楽かけて過ごしてた。 僕たちが作っていた曲は今もネットにある。 実はこれに歌手はいない。鍵盤で弾いたメロディラインに字幕で歌詞を当てただけ。僕たちは自慢するほどの歌声はなく、流行っていたボーカロイドという機械に歌わすのもしっくりこなかったから。僕は気持ちが安く感じるからだったけど、東條は何で嫌がったかは実は分からずじまい。彼にも音楽において熱い気持ちがあったのかもしれない。 この曲を歌わせてください。っていう人たちの連絡も正直絶えなかった。僕たちが曲を作るように、彼らは歌を歌いたがっていた。これは東條が嫌がったからNGにした。 「この曲を作ったのは俺と、お前。知らないやつが歌うと、何も知らないやつが、知らないところで聞いたら、この曲は知らないやつの曲になる。ボーカルの力は強いんだ。ボーカルがいなければ曲がメインだ。俺たちの曲を俺は自慢したいんだよ。」 言葉は下手だったけど気持ちは伝わったし、俺は凄く嬉しかったよ。あまりにもしつこくDMとかが来るから、NGだというのは早い段階で公表した。DMも閉鎖した。勝手に歌う奴らが居たけど、僕たちのファンが勝手に通報?とかしてくれてたみたい。 僕はたまに東條との曲を聴く。 東條が死んですぐは聴けなかった。色々な想いが爆発して、堪えれなかった。けどこの音を聴くと東條がいるように思えて。東條の生きた証だと切り替えれてから聴けるようになった。 誰も居ないから俺はスタジオの受付の中で曲を聴いていた。音源としても持っているが、ネット上にアップしたものから聴く。最近は活動してないんですか?と数日前に新しいコメントが書かれていた。ごめんなさい、無理です。無理なんです。
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