線香花火

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その日は、晴天で気持ちのいい夏の日。 東條が彼女と1泊2日で箱根の温泉行ってきた次の日。17時からスタジオパズル集合な!って突然電話してきて、いつも通りスタジオに行った日。 東條が、過去1番のアップテンポで爽快なロック調の曲を聴かせてくれた日。 「箱根めちゃくちゃ良くて楽しかった!これお土産の卵、あげる。いやー昨日家着いてからさ、勢いでギター弾きたくなってかき鳴らしてたらピンときて!勢いだけにしてはめちゃくちゃ良くねえ?!」 東條の顔はキラキラしてて、その曲もキラキラしてて。僕はこの曲にどんなメロディを重ねて歌詞を乗せろというの。僕はキラキラとは180度反対の気分だった。 東條が弾くその場でメロディの構成やベースラインだけを練り上げて、歌詞は宿題がいつものパターン。 次のスタジオの時に合わせて、ドラムは東條が打ち込みしてくる。ドラムは割と適当なのが僕たち。もっと適当なこともあるけど。 僕はこのキラキラした曲が1番苦戦した。書けなかった。だから苦肉の策で1泊2日の旅行がどうだったか全て聞き出した。楽しかったこと全部。それをストーリー仕立てにしつつ、自分を彼女に置き換えて詩を綴った。夜の話はお前に早いって、教えてくれなかったけど僕は妄想して、興奮して、泣いた。 苦戦したその曲は新規のファンを掴んだ。再生回数もだいぶ伸びた。こういう曲調もっと聴きたいってコメントも多かった。やめてくれ、と本気で思った。 その曲、タイトルは 妄想ロマンスカー …そう、僕たちはドラムの他にタイトルが適当だった。 ロマンスカーに乗って箱根に行ってロマンスカーに乗って帰ってきた。ワクワク感、疾走感。名前にあるロマンスがその2日間にはあって。東條がロマンスカーがいいんじゃないかって。 それだけだと曲のタイトルとして流石に冴えないから僕が妄想をつけた。二人の旅と、僕の妄想。そんな曲。 そう、Aスタジオから聞こえてくる歌は間違いなく妄想ロマンスカーだった。
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