15人が本棚に入れています
本棚に追加
/361ページ
それを麦わら帽子の少女がなだめており、時野アヤは不機嫌そうに眺めている。
……なんだ? 見えないのは僕だけなのか?
「と、時野さん……」
困った俊也はとりあえず時野アヤに助けを求めた。
「え? あ、えっと……実はね……。サキに抱き着いているのは稲荷神なの。子供の外見の女の子だけどたぶん歳は私達より上。あ……そうだったわ。あなたには見えて……いないんだったわね。うっかりあらぬことを言ってしまったわ……」
時野アヤは戸惑いつつ頭を抱えた。その顔がいつも通りかわいかったのだが、雰囲気的に時野アヤにみとれている場合ではなさそうだ。
「稲荷神の……女の子……」
「へえ! そうなんだ! 七夕まつりって夜だけじゃないのか! え? 楽しそう! 行く行く!」
日高サキは何かと会話をしているようだが、何の会話をしているのか断片的過ぎてわからない。
「えっと……いまから七夕祭りに行くんだけど一緒に行かないかって『イナ』が……」
地味目な少女が俊也に声をかけてきた。イナというのは稲荷神の名前なのか?
「なんか楽しそうだね」
「えっと私は龍神、ヤモリ」
「へえ、不思議な苗字だね。龍神ヤモリさんか」
彼は天然なのだろうか。彼女は龍神のヤモリだと自己紹介したようだが、彼は苗字が龍神で名前がヤモリだと思ったらしい。
「ああ、彼女、本名は家之守龍神(いえのもりりゅうのかみ)だよ」
「ん? 神? あだなとか?」
日高サキが途中で会話に入ってきたため、俊也はまたわからなくなってしまった。
「もうサキ! 話をややこしくしないで!」
時野アヤに怒られ日高サキは肩をすくめた。
なんだかすべてを諦めたように見える時野アヤはどこかすっきりした顔で俊也を仰いだ。
「まあ、七夕まつり行ってみるのもいいんじゃないかしら? ……そっちの方がこの辺の神社を歩き回るよりよっぽど安全……」
時野アヤは顔を引きつらせながら俊也を見ていた。
そこで俊也は時野アヤが七夕まつりに行きたがっていることに気がついた。
……そうか。時野さんはここの七夕まつりを知っていて行きたかったんだ!
だから不機嫌だったんだ。
俊也は自分の鈍感さに頭を抱えた。残念ながら彼は鈍感の上を行く鈍感であった。
「いいよ! 七夕まつり行こう! まだお昼過ぎだし、夜は花火があるらしいけどその前に帰るでしょ? 日高さんが……」
俊也が口ごもった時、日高サキが非常に残念そうな顔で俊也を見据えていた。
「花火いいなあ。あたしも見に行きたいんだけど、怒られちゃうからさ。あんた達、夜の花火見てきて。後で感想聞かせてよ。ま、とりあえず昼!」
日高サキは再び笑顔になると何かと戯れながら祭りのやっている海辺の方面へと歩き出した。
……高校生で日が暮れる前に帰らないといけないなんて本当に厳しい家庭なんだな。日高さんち。……そういえば彼女、神社から突然消えた事あったけどあれ、なんだったんだろ。
俊也は「うーん」と唸りながらしばらく考えていたが途中で飽きたので、日高サキが歩き出した方面へとついて歩いて行った。時野アヤはそんな俊也を心配そうに眺めていたが、やがて黙って歩き出した。その後を龍神ヤモリがついて行く。
汗を流しながら田舎道を下り、海辺へと出ると海岸から海岸近くの神社までやたらと賑わっていた。
屋台が沢山出ていて、海で遊ぶ子供や昼ご飯を買っているカップルなど、かなりの人数がお祭りを楽しんでいる。
最初のコメントを投稿しよう!