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「じゃ、あたしはもうそろそろ行くわ。日が陰ってきたし、そろそろ月が出ちゃうから」
サキはアヤにそう告げると突然消えた。
本当に言葉通りに跡形もなく突然消えた。正確に言えば手を広げた瞬間に消えた。
「うん。じゃあね。サキ。また明日学校でね」
時野アヤは何もない空間に話しかけると手を振った。
俊也はこの光景を見て金縛りにあったかのように動けなくなった。
……これは……一体なんなのだろう?
時野アヤは再び先程話しかけてきた場所に目を向けると、何か言っていた。
それから軽く手を振って神社の鳥居を潜り、俊也が隠れている草むらを通り過ぎて階段を降りていった。
「……な、なんだったんだろう?」
俊也はしばらくその場で動けなくなっていたが、ハッと我に返って慌てて階段を降りていった。
その次の日、昨夜ずっと考えていた内容についての結論が出た。
それは時野アヤが超常現象好きで何度も超常現象に会っているのではないかという事だ。
俊也は彼女こそ「超常現象大好き部」にふさわしい人物だと思った。何かずれている気もするが……。
故に……俊也は部の勧誘をしようと話しかける事に決めた。
朝のホームルームが終わり、一限目がはじまろうとしている所だった。
早く話さなければとも思ったが俊也は突然、親しくもない女の子に話しかけられるほど、鋼の心は持ち合わせていない。
そこで、おそらく超常現象が好きであろう時野アヤに俊也はある土産話を持って会話をすることに決めた。
「あ、あの……時野さん」
俊也は自分でも驚くほど小さな声で時野アヤを呼んだ。
「何かしら?」
隣の時野アヤは俊也に社交辞令的な笑顔を向けてきた。
「じ、実は……昨日の夜から今朝にかけての噂なんだけど……商店街の車道で車を走らせていた人達がある一点のポイントに来ると、何かを避けるように車が動いてしまうって言っていたんだ。でもそこには何もなくて不思議がって怖がっているんだよ。何か知らないかな? なんとなく避けなきゃいけない気持ちにもなるとか……言ってたんだけど」
俊也は部活の勧誘よりも先に土産話の方を話してしまった。
しまったと思った時にはもう遅く、時野アヤは何かを考えはじめてしまった。
しばらく考えていた時野アヤはため息をつくと俊也の方を向いた。
「ねえ、あなた、そのおかしなことが起きた場所に案内できる? 今」
「ええ⁉ 今っ?」
俊也は突然の言葉に目を見開いて驚いた。
……行きたいけど……だってこれから一限目……。
「ああ、そうよね。授業だものね。ダメね。じゃあ放課後で」
時野アヤはあっさりと引き下がった。
「よく考えたら夕方まであまり車通らないし、後でいいわ」
「……」
時野アヤがさらりと言い放ったので俊也は戸惑ってしまった。
部活を……と言いかけたところで先生が来てしまい、会話はそれっきりだった。
放課後、俊也は時野アヤを連れて噂があった商店街に来ていた。
「確か、日穀信智神(にちこくしんとものかみ)っていう神がいる神社に、近い神社の所だって言っていたから……」
商店街には二つ神社があった。一本道の商店街の右端と左端にそれぞれ違う神がいる神社がある。
ここは実りの神がいる日穀信智神の神社とは反対側に位置する小さな神社。確かいる神は龍雷水天神(りゅういかづちすいてんのかみ)。この神は最近では珍しい井戸の神様とか。
世にも珍しい井戸の神様がいる神社の階段の方へは行かず、俊也はその手前の道路で止まった。
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