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「そうか。それで、真治は科学者とかいうやつだろ。それなら、俺のこともある程度察しが付くんじゃないか?」
「いや、俺は確かに研究者だが、全く未知のものに対してなにかわかることがあるかと言われると、無い。これから理解するために研究することはできるが……」
「なるほど。じゃあ、やはり少し説明した方がいいかもしれないな。」
シンは、ひと呼吸置いてから話し始めた。
「まず、この世界の外側には、無数の世界がある。そこには色々な事象、人、物がある。テクノロジーも様々だ。それを踏まえた上で言っておくことがある。琴葉茜と琴葉葵、この二人は特別な存在だ。世界は、基本的に二人を中心に動いている。いわば世界の心臓だ。」
我が娘たちが、そんな大変な運命の元にあるだなんて、にわかには信じられなかった。
「だが、二人がそんな星の元にあるなんて――」
「信じられないか?未来予知ができる娘を持っていてもか?」
その言葉に、俺は言葉を詰まらせてしまった。
確かに、葵には不思議な能力がある。だが、茜は、茜にはそんな能力があるなんて微塵も感じられなかった。
「信じましょう。」
葵が真剣な眼差しで、唱えるかのように言う。それは、俺に言っているような、自分に言っているような、この場に響き渡るような声色だった。
「私達は、この『シン』のことをよく知らなければなりません。なのでお父さん。」
「そうだな。仕事用の研究の合間にでも――」
「だめです。」
葵が俺の言葉をさえぎって言う。
「最優先で行ってください。私には時間がないのです。」
「……そうだったな。」
普通に話していたので忘れていたが、我が娘葵は余命一年らしいのだった。
「最優先でやろう。これの研究の成果も少し公表すれば生活も支障ないだろう。」
「はい。それで大丈夫です。
シン、あなたの体の一部をお父さんに渡してあげてください。」
「ああ、いいぞ。」
「少し待ってくれ。」
俺はデスクの上からペトリ皿を持ってきた。
「ここに頼む。」
シンは、黒い球体状の体から、触手のようなものを生やし、それをペトリ皿の上にポトリと落とした。
俺はすぐさまペトリ皿に蓋をした。
それと同時に、触手のようなものは溶け出し、平べったくなった。それは液体のようにも見えるが、気体のようにも見えた。
「これは……?」
「俺の体の一部分を分離しただけだ。まだ生きているし、俺の意思で動かすこともできるぞ。」
ペトリ皿の中のモノは、突如球体に変化したかと思ったら、小さな人型になり、ペトリ皿の中を歩き回った。
「なるほど。」
「ではお父さん。研究の方、お願いします。」
葵が席を立つ。
「葵はこれからどうするんだ?」
「自分のやれることをします。制限時間は短いですけどね。」
娘は一年後に死ぬ。そのことに一抹の不安も無いかのように、娘は微笑んでいた。
「お父さんも、やれることをやってくださいね。約束です。」
「ああ、約束しよう。」
娘と小指を絡めて約束を契る。
「少なくとも、未来を良い方向に持っていく方法はあるので。お父さんも、協力してくださいね。」
玄関から出ていく娘は、どこか儚く、しかし強い意志を持っているように感じ取れた。
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