プロローグ

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「この歳になると、ふとした時によく昔のことを思い出すんですよ」 かつての美しさは何処へ行ったのか、年を重ねた彼女の頭には白髪が混じり、優しい目尻や口もとには皺も刻まれている。 しかし彼女の胸の中に大切にしまわれた記憶は、思い出は、色褪せることはない。 「初めて私たちが出会った日のことを覚えていますか?」 福は遥か遠く、どこまでも広い天を仰ぐ。 よく晴れた紺碧の空を、霞がかったおぼろ雲が漂っていた。 「あの時は散々な目にあったと思ったけれど、そのお陰であなたに出会うことができたと考えると、縁とは何とも不思議なものです」 (勿論覚えているとも。あの日のことは生涯、いやあの世(こっち)に来たって忘れられるはずもない。私にとっても、掛け替えのない大切な日なのだから。)
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