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1月からスタートする蓮が主演のドラマ。
その宣伝の為に、蓮は多くの番組に出演していた。
起床後、すぐに付けた朝のワイドショーに、丁度、蓮がインタビューを受けている様子が放送されていた。
大和はコーヒーを飲みながら、しばらくそれを眺めていた。
そのインタビューがいつ収録されたものかは分からないが、撮影が進んでいる最中には間違いがなく、意識して見てみれば、少しやつれた様な、元気がない様な雰囲気は感じる。
しかし、それは、蓮がメンタルを弱らしていると先入観を持っているからで、客観的に見れば、至って通常通りにも感じられた。
恭太には連絡してみると言ったが、果たして、こちらから様子を伺い手を差し伸べる事が正解なのか、大和は少し迷っていた。
送ったメールの返信が未だにない事。
向こうから手を伸ばしてくるまで待つのも、必要な事かもしれない。
それは、瑠羽に対しても言える事である。
蓮の事も瑠羽の事も心配だ。
だけど、自分が首を突っ込むのは、ただのお節介なのではないだろうか。
そんな風にも思えた。
大和は仕事へ向かう為の準備をしながら、いや、でも、と思考を働かせる。
気に病んでいる恭太の為にも、もう一度連絡をしておこう。
『あんまり、色々と溜め込むなよ?
話くらいなら聞けるから。』
支度を終え、迎えに来る予定のマネージャーを待ちながら、大和は蓮にメールを送った。
結局その日、蓮からの返信は無かった。
大和が帰宅したのは20時を過ぎた頃。
仕事の合間に、何度も携帯電話を確認し、蓮からの返信がない事を確認すると小さくため息を着く。
特に周りからも、彼に対しての不穏な話などは聞かないし、仕事も生活も無事に送っているのだろう。
ひとまずは、そうであればいいか。
でも、あれから、Rose thornsとはどうしているだろうか。
瑠羽達を困らせたりしていないだろうか。
大和は触れない方がいいのかもしれないと思いながらも、心配な気持ちを抑えきれず、瑠羽に電話を掛けた。
「はい。」
「あ、もしもし?瑠羽?
今、電話大丈夫?」
「うん、大丈夫。
珍しいね、そっちから連絡してくるの。」
数コール後に電話に出た瑠羽の声はいつもと変わらない雰囲気で、大和は少し安心した。
「どうかした?」
「あ、いや…
最近どうしてるかなって。」
「え~?最近?
何、急に。
逆にどうかしたの?」
電話の要件がイマイチ分からない瑠羽は、少しだけ訝しげに尋ねる。
「いや…どうかしたって訳じゃないんだけど…
大丈夫かなって…色々と。
…蓮の事とか…」
「ああ…その事ね。」
そう言って瑠羽は少し黙った後、
「…どうなんだろうね。」
声のトーンを暗くした。
あの日の蓮との一件を、恭太が大和に話した事を瑠羽は、恭太から聞かされていた。
もう、会いにこないで
そう言って、蓮を突き放してから、彼は瑠羽の元を訪れてもいないし、連絡も来なくなった。
蓮が精神的に不安定になっている事は、纏う雰囲気から分かってはいたが、叶えた夢を簡単に手放そうとする彼の言葉がどうしても許せなかった。
あれが本心で無いにしても、公私混同している事は、見て明らかだったし、正直、最近の蓮との接し方に迷いが生じていた事は確かだった。
蓮からの好意が重い。
ウタの事を今でも変わらずに想っていると、断りを入れても、蓮は何度も何度も告白をしてきた。
そこに関しては、どうしたものかと、困惑があったことは否めない。
それでも、彼はニコニコといつも笑顔で明るく、自分達と同じ様に夢を追いかけていた。
そんな所に共感と癒しを感じ、友人として受け入れてきたが、最近の蓮はとても異様だった。
「1度、落ち着く時間が必要なんだと思う。」
仕事柄、ゆっくりとした時間が取れない事は分かっている。
でも、ある意味、使命感の様になっている来訪も、無くせば、少しは時間も取れ、思考も落ち着くのではないかと、瑠羽は考えていた。
「そうだな…」
大和はそう呟いた。
「そういえばさ…」
瑠羽は話題を変えようと、少しだけ声のトーンを上げて話し出した。
「正月に、ウタの地元に行こうと思ってて。
ウタの生まれ育った街をブラブラしようかなって。
ちょっとした気分転換っていうか。
ずっと行きたいって思ってた場所もあるしさ。」
「え?そうなん?」
ウタの地元。
それは、大和にとっても地元にあたる。
「実は、今年の正月は休みが取れたから、帰省する予定なんだよ。
…都合が合うなら、案内しようか?」
大和はそう尋ね、2人の予定を照らし合わせてみると、1月2日の夕方からなら、都合が合う事が分かった。
「じゃあ…お願いしようかな。」
少し考えた後、瑠羽はそう答えた。
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