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瑠羽は、ウタに思いを打ち明ける事はないまま、ギターを変わらず教えてもらっていた。やがて、ギターの腕前が上達していく中で、自分を音楽で表現する心地良さを感じる様になった。 「音楽の力は凄いんやで。」 彼はいつもそう言っていた。 瑠羽が音楽を楽しめる様になったのと、ほぼ同時期に、恭太は高校に上がってから出来た友人とバンドを組もうという話になった。 恭太は、ギターとして瑠羽を誘った。 こうして、Rose thornsは結成された。 瑠羽がバンドを組んだ事を、ウタはとても嬉しそうにしていた。 Rose thornsはウタのアドバイスを受けながら、徐々に実力をあげて行ったが、もちろん上手くいかない事の方が多い。 何度、メンバー間で衝突しただろう それでも少しづつ前へ進んできた。 地元のライブハウスに初めて立った時 Rose thorns目当てで来ている客は、付き合いでチケットを購入してくれた友人達しかいなかった。 それでもステージに立って演奏する事に、全員が感動を覚え、いつしか、プロのミュージシャンになりたいと夢を思い描いた。 ある日、瑠羽とウタの2人はスタジオを借り、練習をしていた。 アコースティックギターを爪弾き、優しい声で歌うウタ。 瑠羽は、いつしか自身の手を止め、それに魅入っていた。 スタジオに付けられている、至って普通の蛍光灯の光。 それがウタに全て集められ、この部屋で彼だけが光を発してる感覚を覚える。 歌を歌いギターを奏でる。 その行為に、まるで愛しい誰かを想う様な美しさを感じ、意味もなく涙が零れそうだった。 「…見とらんと、練習しぃ。」 そんな姿を、瑠羽がじっと見つめている事に気がついたウタは、少し恥ずかしそうに笑いながら、促した。 「ねぇ、ウタ。」 瑠羽は、彼の傍に椅子を持っていき座る。 「ウタはさ、プロになろうとは思わなかったの?」 瑠羽は、ずっと不思議に思っていた。 早くに地元を離れたというウタは、楽器店に勤めながら、色々なライブハウスに出向き、瑠羽達に行っている様に、アマチュアバンドにアドバイスをする様な生活を送っていた。 そこまでの音楽センスがあり、1番音楽を楽しんでいるのに、何故だろう。 その問いに、口元は笑んでいるのに、目の奥から光がスっと消えるのを感じた。 「俺もほんまはプロになりたかったんやで。 そもそも、その為に上京したきたんやし。」 「…じゃあ…」 「突発性難聴。」 「え…?」 「突発性難聴になってもうたんよ。」 上京してきたウタは、現在も働いている楽器店に勤めながら、ライブハウスでローディをし、ストリートでも活動をしていた。 活動拠点を東京に移してからも地元のライブハウスにも顔を出し、地道にファンを増やしていっていた。 そんな矢先、突然左耳に違和感を覚えた。 初めはモヤのかかった感じだった。 不思議に思いながらも普段の生活を送っていたウタだったが、ある日目が覚めると左耳の聴覚が著しく低下している事に気がついた。 「治療して、普通の生活を送れるくらいには復活したんやけど…やっぱライブとなると、厳しいねんな…」 何とか夢を諦めずに進みたかったウタだったが、普通に歌うのとライブでステージに立つのとでは全く勝手が違う。 日常生活は送れるといっても、周りの大きな音の中で、狂いなく歌う事は難しく、左右の耳の聴力の違いへのストレスや、より強く感じる耳鳴り、そして、耳の中に感じるモヤの様な物が頭痛や吐き気を引き起こしたりした。 それでも無理をしたウタはある日ステージ上で倒れてしまう。 病院のベッドの上で目を覚ましたウタは、自分は夢を追う事が出来ないのだと絶望した。 しばらくは、絶望の淵に立たされ、何の気力も起きなかったが、それでも、音楽が好きな気持ちは消す事が出来ず、ライブハウスに顔を出し、出演バンド達に思った事を伝える様になった。 プロでも何でもないウタからのアドバイスを素直に受け入れて貰えるまでに時間は掛かったが、少しづつ効果を見せ始めた的確なアドバイスは、今では色んなアマチュアバンドに必要とされるまでになっていた。 「何でもいいんよ。 音楽に関われるなら、何でも。 …まぁ、でも、もっと大きなステージからの景色を見たかったなぁ。」 ウタは少しだけ悲しそうに眉を下げていたが、それでも微笑んでいた。 そんな話を聞いた瑠羽は自然と涙が零れていた。 「何で瑠羽が泣くん?」 ウタは困った様に笑いながら、瑠羽の頭を優しく撫でた。 ウタの優しさに瑠羽の涙は更に溢れる。 何故、泣いているのか自分でもよく分からない。 夢を持ったばかりの瑠羽には、絶望する程の挫折など味わった事がなく、それがどれ程苦しい事なのか想像すらつかない。 ただ、温かく優しい太陽の様なウタの苦悩する姿を想像すると、胸が締め付けられる思いだった。 「私…」 「うん?」 「私…ウタが好き」 「…え?」 「ウタが好き!」 瑠羽は泣きながら声を張り上げた。 ウタは尚も困った様に、 「告白のタイミング、おかしいやろ~」 と、笑っていた。 「私、絶対にプロになるから! ウタが見たかった景色を…私が見せるから!」 泣きながら、そう叫んだ瑠羽に、 「ありがとう。」 ウタは微笑んだ。
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