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穏やかな風に揺られ木々が葉を擦る音をBGMに、大和は瑠羽が語る思い出話に耳を傾けていた。 「それで、付き合ったの?」 「んーん。付き合ったのはもう少し後。」 瑠羽が唐突に告白をした後、ウタは少し考えさせてほしいと伝えてきた。 想いが突然溢れてしまった、自分でも想定外の告白に、冷静になってから、顔から火が吹くほどの恥ずかしさを感じたが、その後もウタは至って普段通りで、あぁダメだったのかもしれない、そう瑠羽は感じていた。 それでも、プロになりたいと思ったのと同じくらい、ウタに大きな会場のステージ上からの景色を見せてあげたいという気持ちは変わらず、練習に励んだ。 地道に歩みを進め、バンド結成から1年、瑠羽が17歳になった頃。 ウタのアドバイスを受け進んできたRose thornsは技術面の向上に加え、音楽を、ステージを楽しむ事に重きを置き、活動をしていた。 そんなある日の事。 いつもの様にスタジオを借り、練習をしていた瑠羽とウタ。 瑠羽が楽しそうにギターを弾く姿を、ウタも嬉しそうに眺めていた。 瑠羽はこれまでの経験から容姿にコンプレックスを持っている。 ライブハウスに立つ人間が男性ばかりなのもあり、自身が女性である事に負い目の様な劣等感まで抱いていた。 だから、見劣りしないよう、努力を怠らなかったし、演奏スタイルも大きく、荒々しさまで感じさせた。 それでも、細かな手法などで大事に音を奏でる事にも気をつけており、ウタは、瑠羽にギタリストとしての大きな可能性を感じていた。 そして、彼女のギターソロは素晴らしかった。 身体を突き刺される様な鋭い音を鳴らしながら、時折、顔を歪め天を仰ぐ。 地上から天へと昇る天使 ウタはそんな錯覚を覚え、思わずプレイ中の瑠羽の腕を掴んでしまった。 突然、腕を掴まれた瑠羽は、軽く息を切らしながら、唖然とした顔でウタを見る。 「…何?どうしたの?」 「あ…いや…」 キョトンとした顔つきで見てくる瑠羽の目を直視出来ず、ウタは思わず掴んでしまった腕をそっと離した。 「も~!何? いい感じだったのに。 それとも、何か変な所あった?」 「ちゃうねん…何か… 瑠羽が天使に見えて…。 ここから飛んで行ってまう様な感覚になって…」 一瞬の間を置いて、瑠羽は吹き出した。 「天使って。 何言ってるの、ウタ。 私が、そんな綺麗なモノのわけ…」 ウタは、瑠羽の言葉を遮る様に抱き締めた。 ウタは、誰にでもフラットに付き合え、距離感も近く、表現もとても素直な人だった。 だから、これまでも慰めや喜び、感謝などの流れで抱き締められる事は多々あった。 でも、今回はいつもと違う。 瑠羽はそう感じていた。 「俺…ずっと悩んどった。 前に、瑠羽が俺の事好きやって言うてくれてから、ずっと。」 ウタは瑠羽の体に回した腕に力を込める。 瑠羽が恭太とウタの勤める楽器店に訪れた日。 1人でいる瑠羽に声を掛けたウタは、彼女に体に溜め込んだモヤの様なものを感じていた。 だから、それを発散出来る、自分を表現出来る術として音楽を勧めた。 それから、約1年後、彼女は自分の元を再び訪れ、ギターの指南をお願いしてきた。 それは、非常に嬉しい事で、アドバイスを素直に受け止め、技術が向上していく瑠羽を見てるのは楽しかった。 そして、バンドを組み進んでいく中で、ウタの挫折を知り、まるで自分の事の様に涙しながら、決意を叫び、想いを溢れさせた彼女に、正直、愛しさを感じた。 けれど 夢を見つけた彼女の足枷にならないだろうか 可能性の灯火を消してしまわないだろうか 自身の存在がマイナスになりかねないと考えたウタは、彼女の気持ちに応える事も出来ず、むしろもう離れた方が良いのではないかとさえ感じていた。 告白に一向に応えないウタに、瑠羽は答えを急かす事もなく、まだ見ぬ景色にウタを連れていく決意を新たにしていて、自己防衛の為に壁を作っていた彼女の本当の姿は、純粋で強く優しいのだと感じ、更に想いを深くしていた。 それでも踏ん切りがつかなかったウタだったが、まるで天使のように空に昇って行ってしまう錯覚を覚えた時、自分の傍にいてほしいと強く思った。 「俺…瑠羽の事好きや。 傍におってほしい。」 ウタは瑠羽から身体を離し、真っ直ぐ目を見つめて言った。 唖然としていた瑠羽は、見る見る間に大粒の涙を溢れさせる。 「私も好きだよ。 ウタの事が大好き!」 こうして2人は結ばれた。 とても綺麗で素敵な恋物語。 大和はそう感じながらも、ウタがもうこの世にいない事、それなのに、まるで未だに存在しているかの様に幸せそうな表情で語る瑠羽に、えもいえぬ切なさを感じていた。 「そろそろ行こうかな。」 しばらくして、大和はそう言うと静かに立ち上がった。 「ウタも喜んでると思う。 ありがとう。」 瑠羽は丁寧に頭を下げた。 その姿に大和は微笑んで、 「こちらこそ、ありがとう。」 頭を下げ返した。
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