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あの日、蓮と別れてから連絡は無い。 大和はそんな蓮を気にしてはいたが、どんな風に連絡を取ったらいいのか迷い、結局出来ないまま、1ヶ月程経ってしまった。 瑠羽の事、蓮の事。 見えない答えをただ闇雲に探すだけの思考は、精神を疲弊させる。 毎日、組み込まれた忙しないスケジュールをこなしてる間は、仕事以外の事を考えずに済む事が、救いの様な気もしていた。 そんな中、突然出来た休日。 大和は特に予定を入れていなかったが、気晴らしの為に外出する事にした。 11月中旬にもなると、いよいよ冬も到来か、寒さが本格化してくる日も多かった。 その日の目的をショッピングに決め、大和は車を走らせた。 都内に店を構えるお気に入りのブランドで買い物を楽しみ、ブラブラと散策していた時、 「あれ?木下さんじゃないですか?」 と、突然背後から声が掛けられた。 外出する時は帽子を深めに被ってはいるが、気がつく人はいるもので…。 話し掛けてほしくない時も、もちろんあるが、こればかりは仕方ないと、大和は俳優 木下大和のスイッチを入れ振り返った。 「…あ」 振り返った先にいたのは、若い男女。 改めて、大和を認識すると、 「やっぱりそうだ! 久しぶりですね。」 嬉しそうに笑顔を浮かべていた。 そこにいたのは、恭太とモモだった。 ライブを見に行った日以来の再会。 少し路上で会話を交わしていたが、お互い時間に余裕があった為、近くのカフェに一緒に行く事になった。 「久しぶりだね、元気にしてた?」 席に着くと、大和は2人に笑顔を向ける。 「はい。 他のヤツらもみんな元気ですよ。」 恭太がそう答えた。 その日、恭太とモモは出かけ先が近かった事もあり、一緒に行こうという話になった。 大和は、少しだけ付き合ってるのかと思った事を告げると、恭太もモモも笑いながら否定していた。 それから、3人はそれぞれの近況報告の様な会話を交わした。 Rose thornsは変わらず、活動が好調の様で、音楽活動に勤しんでいた。 「そういえば、インディーズデビュー決まってるんだっけ?」 大和がそう聞くと、 「あ、はい。 来年の6月にその予定です。」 恭太は嬉しそうにそう答えた。 「そっか。 凄いな。」 嬉しそうな恭太を見て、大和も心が暖かくなる様だった。 「そういえばさ…」 大和はモモを見る。 「モモちゃんはどういう経緯でバンドに関わる事になったの?」 人見知りで引っ込み思案なモモは、自身に話題が向いた事に、少しだけ顔を俯かせながら、話し出した。 モモがRose thornsの傍にいるようになったのは、今から1年半程前の事。 高校3年生の2学期頃だった。 モモは昔から服を作ることが好きだった。 幼い頃は人形の服をよく作っており、成長すると共に、その対象は人間となり、自分の物や家族の服などを作ったりしていた。 将来は、デザイナーになりたい。 ごく自然に沸き起こった夢であったが、モモは幼少期から極度の引っ込み思案で人見知り。 人付き合いが上手くなく、自分に自信もなかったモモは、芽生えた夢を誰にも言い出す事も出来ずにいた。 いよいよ高校3年生となり、将来の志望を決めなくてはならない。 そんな状況でも、彼女は踏ん切りがつかず、家族にすら相談も出来ないまま、ただ周りの色々なものに流される様に就職をする事に決めた。 やりたい事があるのに、弱気な自分がそれを邪魔をする。 いつも心が曇った様な気持ちの悪さを感じていた。 休日に都内に買い物に来ていたある日の事。 たまたま通りかかったライブハウスの前に、その日の出演バンドのポスターが貼ってあるのを見た。 モモはその中のとある人物に心を奪われた。 それは、瑠羽である。 モモは彼女を生で見たい一心でその日のチケットを購入、ライブハウスへと足を踏み入れた。 ライブ自体も初めてで、ライブハウスなんてもちろん経験が無い。 いざ中に入ってみると、狭い空間に思い思いの格好をしたファンがひしめき合う、モモからしたら異様な世界に、恐怖感を覚え、早々に後悔していた。 勝手の分からないモモは人の波にのまれる様にステージ付近まで押され、それを掻き分けて出口に向かう勇気もなく、ただひたすら苦痛な時間を過ごすしかなかった。 いよいよライブがスタート。 その日は数組のバンドが出演するライブだった。 ライブが始まると、ただでさえひしめき合うファン達が曲に合わせてノリ出し、そのうねりにもみくちゃになりながら、モモは泣きそうになるのを必死に耐えていた。 お目当ての瑠羽達がいつ出てくるかも分からない。 その時のモモは、何でもいいから早く終わって欲しい、それだけしか考えられなかった。 その時 ドンッという音と共に 「顔を上げろ!!」 という、女性の叫び声が聞こえた。 俯いていたモモは、恐る恐る顔を上げた。 気がつけば、Rose thornsの番が来ていて、目の前のステージにギターを持った瑠羽がいた。 瑠羽は、1発でライブハウスの客としては不釣り合いなテンションのモモに気が付き、そんな彼女がまわりにもみくちゃにされながら、俯いて耐えている事を悟った。 それなのに、何故、最前列付近にいるのだろう。 前の方がよりごった返しているのに。 瑠羽は、不思議に思いながらも、何とかモモの意識をこちらへ向けさせようと考えた。 演奏しながら、ステージのギリギリまで来ると、1度足でステージを踏み鳴らし、顔を上げろと叫んだ。 モモは瑠羽を認識すると、彼女に一瞬で見惚れた。 相変わらず、体は周りのファンにぎゅうぎゅうに押されながら、それでも、まるでスローモーションの空間にいる不思議な感覚。 目が合った事に瑠羽も気がつくと、今度は力強く天に突き刺す様に、手を何度も上げた。 モモもそれと同様に、必死に手を上に突き出す。 瑠羽は二力っと嬉しそうに笑うと、突き出したモモの手を自身の手で強く叩き、親指を立てて見せた。 その後の事はよく覚えていない。 ただ、瑠羽の美しさと温かさに我慢していた涙が溢れて仕方なかった。 「うわ~ 瑠羽ちゃん、かっこいいなぁ。」 大和は感心した様に声をあげる。 「そうなんです、かっこいいんです。」 モモはまるで自分が褒められたかの様に、嬉しそうに笑った。 その日のライブ以降、モモは自身でも驚く程の行動力を見せた。 Rose thornsの、瑠羽の衣装を作りたい その一心で、彼女達の姿から湧き出たアイディアをまとめたデザイン画を持ち、瑠羽達を探した。 あの日出演していたライブハウス、Rose thornsがよく練習しているというスタジオ。 何度も足を運び、彼女達を探したが、事務所などに所属している訳でもないアマチュアバンドを探すのは容易な事ではなかった。 何度も訪れる必死なモモを見兼ねて、スタジオのスタッフがデザイン画とモモの連絡先を預かると声を掛けてきてくれ、Rose thornsが来たら渡しておくと言われた。 そして、その数日後 モモに瑠羽から電話が掛かってきた。 デザイン画の出来と自分達を必死に探していたモモの話しを聞き、瑠羽はモモに1度会おうと約束してくれた。
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