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それから、モモはRose thornsのメンバー全員と対面した。 モモはようやく瑠羽達に会えた事への感動や興奮の様な感情の赴くまま、衣装を作らせてほしいと願い出た。 メンバーはモモの描いたデザイン画を気に入っていて、それに加え、彼女が自分達を探し回っていたという熱意にありがたさを感じた。 そうして、Rose thornsはモモに衣装の作成をお願いした。 出来上がった衣装は、動きやすさも考慮された、素人が作った物とは思えない出来だった。 音楽に詳しくないモモは、他にも何か手助けが出来ればと、ヘアメイク等の勉強もしてきており、それぞれのメンバーに最適なスタイルを提案してきた。 その日、モモは客席の後ろの方からステージを見ていた。 自分の作った衣装を着てステージに立つ彼女達を見て、全身の毛が逆立つ程の興奮を覚えた。 人に認められた事 誰かの為に頑張った事 これまでの自分からは想像出来ない 初めて経験する喜び それは、モモの心にある決意をさせた。 「なんかスタイリストが出来たみたいで、面白かったよ。 ありがとう。」 ライブ終了後、メンバーはモモにお礼を言い、恭太が封筒を差し出してきた。 その封筒にはお金が入っていた。 「…! 受け取れません!」 モモはそれを恭太に返そうとしたが、彼は受け取らずに笑っていた。 「いいんだよ。 俺達のお礼の気持ちなんだから。 まぁ、そんなに多くないけどね。 あんなに格好いい衣装を作ってくれて、化粧の仕方とか髪型とかアドバイスくれて。 感謝してるんだ。」 それなら…と、モモは思い切ってお願い事をしてみた。 「私を傍に置いてもらえませんか?」 そんな唐突な願出にメンバーは全員呆然とした。 「高校を卒業するまででいいんです。 私は音楽に詳しくないし、そちら方面では役に立ちません。 けど、衣装作ったり、身の回りの事くらいなら手伝えます!」 「なんでそんなに?」 「私…今まで家族以外の誰かに服を作ったりした事ないんです。 でも、たまたま皆さんのポスターを見た時、この人達に衣装を作りたいって思ったんです。 実際、皆さんが私の作った衣装を着てステージに立ってるのを見て…初めて生き甲斐の様なものを見つけた感覚になりました。 だから…お願いします!」 メンバーは正直とても困惑していた。 確かに、モモの作る衣装は素晴らしい。 でも、すんなり了承出来る様な話題でもない。 そんな中、瑠羽が口を開いた。 「高校卒業したら、デザイナーの勉強とか、そっち方面に進むの?」 「え…いえ… 普通の会社に就職します。」 「デザイナーになりたいとかじゃないんだ?」 「なりたくない訳ではないんですけど… 私なんかには無理ですよ。」 困った様な悲しい様な顔で、モモは笑った。 途端に、瑠羽の表情が険しくなり、モモに詰め寄る様に近寄った。 「私"なんか"? 私なんかってどういう事? 大した自信も無いのに、私達の衣装を作らせてくれって言ってんの? アナタの思い出作りの為に、私達は着せ替え人形にならなきゃいけないわけ?」 瑠羽は淡々とモモに詰め寄る。 それは、怒鳴られる以上の怒りを感じさせ、モモの目には見る見る間に涙が滲んだ。 「うちらは、本気でバンドやってるの。 アナタのお遊びに付き合ってる暇はない。」 「ごめ…んなさい…」 モモは泣くのを必死に耐える様に口元に力を込めていたが、やがて涙が頬を濡らした。 「本当は、デザイナーになりたいんじゃないの?」 瑠羽とモモのやり取りを黙って見ていた恭太が、ため息混じりに問いかけた。 「なりたい…です。 でも…誰にも言えなくて…」 「どうして?」 「失敗したらどうしようとか…夢を否定されたりしたらどうしようって…怖くて…」 瑠羽は1つ息を吐くと、先程とは打って変わって穏やかに話し出した。 「失敗したっていいじゃん。 つまづいて転んで、迷って悩んで。 夢を追うってのはそういう事を繰り返していくものなんだよ。 なぜ、誰かに否定される事を怖がるの? モモの夢はモモのものであって、その誰かのものじゃない。 怖がって、何もせずに後悔する方が辛いと思うけどな。」 瑠羽は顔を覆って泣き出したモモの肩を優しく叩いた。 「それで、夢を追う決心がついたんです。」 モモは笑顔で大和に言った。 あれから、モモは両親に報告をし、両親も初めて夢を語ってくれたモモを応援してくれた。 就職する予定を一新し、専門学校へ行く事を決意する。 専門学校へ通う今も、モモはバンドの為に出来ることをして手助けをしている。 将来、デビューした時、彼女達のスタイリストになる事。 それが、今のモモの夢であった。 「瑠羽ちゃんは言葉こそ乱暴だったりするけど、本当に真っ直ぐな人なんだな。」 大和が感心した様に言うと、 「まぁそーッスね。 あれで繊細な所もありますけど。」 恭太がそう答えた。 その時、大和の携帯が着信を知らせた。 2人に断りを入れ、画面を確認すると、メールが来ていた。 「何かいい事でもありました?」 恭太は大和に尋ねる。 携帯の画面を見ていた大和の表情に何やら喜びが溢れてたから。 「え? アハハ。まぁね。」 大和は表情に出ていた事に気がつくと、そう言って笑った。 「あのさ、瑠羽ちゃんに連絡が取りたいんだけど…教えてってのもアレだから…」 そう言うと、大和はメモ用紙に自身の携帯番号とアドレスを書き、これ、渡してもらえる?と恭太に手渡した。 意図の分からない恭太は、キョトンとしたまま、それを受け取る。 「瑠羽ちゃんに渡したいものがあるんだ。 きっと喜ぶと思う。」 なんだろう? と、腑に落ちない表情の恭太達。 「あ、実はさ…」 そんな2人の謎に答える為、大和は帰省した時に瑠羽に会ったことを簡潔に伝えた。 恭太はもちろん、モモもウタの事は聞いていて、瑠羽が彼の命日にウタの地元に行っている事も知っていたが、そこで、大和と会った事は初耳で2人はとても驚いていた。 「その時に少し話してさ、初対面の時は、正直、印象が悪かったけど、色々、見方も変わってね。 瑠羽ちゃんがきっと気に入ってくれるだろう、ある物を入手したんだ。」 「あぁ。それでか…」 恭太は合点がいったという表情で呟いた。
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