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24
生放送の出演を終えると、大和は行きつけのご飯屋に連絡を入れ個室の予約をした。
帰り支度を済ませ、タクシーで店に向かうと、数十分後到着した。
本番を終え、楽屋に戻った大和の携帯には、蓮から
『いいよ。
店決めたら連絡して。』
返答が来ていた。
大和は、素直に蓮の事が心配だった。
今後、俳優としてやっていくにあたって、私情を持ち込んで、役を演じられないのは致命的だ。
大和は蓮と初めて会った時の事を思い出していた。
映画で共演する数年前、今回の様な多くの俳優が多く集まる番組で2人は初めて顔を合わした。
新人俳優として注目されたばかりの蓮は、キラキラと目を輝かせて、俳優としての夢を語っていた。
元々、蓮が大和に憧れを抱いていた事もあり、その時に、声を掛けられた。
自分と違って、俳優としての夢を追い、そして叶え、向上心を持って頑張る蓮に好感を抱いていた。
それから、初めて共演を果たした時、とても嬉しく思った事を覚えている。
自分の様に、運だけで成り上がった奴に何も言われたくないだろう。
瑠羽を想って生きていく事を間違った事とは言わない。
でも、そこを割り切らず、今のまま活動するのは無理な事だ。
そもそも、そんな半端な状態を、あの瑠羽が良しとするはずもない。
先に店に到着し、部屋で待つ大和は、蓮の事を思い、ため息を着いた。
「おつかれ~」
しばらくすると、蓮が部屋へと入ってきた。
フーと息を吐きながら、席に着くと、店員に飲み物を頼んだ。
「お前、大丈夫か?」
「え~?何が?」
間もなく、運ばれてきた飲みのもを飲みながら、蓮は笑った。
「疲れてるっぽいからさ。」
「あぁ。まぁね。」
色々、忙しいんだよ、ボクも。
蓮は大和からそっと目を逸らした。
大和は1つため息を着くと、
「前回会った時…カッとなって悪かったな。」
ひとまず、わだかまりを解消しようと、謝った。
「謝ってくれなくてもいいよ。
そもそも、あれはボクが大和くんに突っかかっていっただけで、悪いのは大和くんじゃないでしょ。」
「…まぁ…そうかもしれないけど…」
「それで、今日は何でご飯誘ってきたの?
謝る為?」
蓮は、困った表情を浮かべる大和に構うことなく、そう問いかけてきた。
真っ直ぐ見つめる蓮の目は以前とはまるで違う。
煩わしい
そんな感情しか感じられない。
人懐こく、ニコニコしていた蓮に癒され、弟の様な友人が出来たと嬉しく思っていたのに。
どうして、ここまで関係が悪化してしまったんだろう。
それは、考えるまでもなく瑠羽の事が原因であるのは分かっていた。
だけど、腑に落ちない。
瑠羽は大和に対して特別な感情を抱いている訳でもなく、蓮にとって大和がライバル的な位置にいるのではない。
現在の大和は瑠羽に対して好意があり、連絡も取っている。
でも、それは、蓮の知る所ではない。
「ちょっと小耳に挟んだんだけど…
お前、ドラマでキスシーンはしたくないって監督と揉めたんだって?」
大和がそう言うと、蓮は、その話かと、更にうんざりした表情を見せた。
「演出にケチを付ける程の理由があるなら別だけどさ…」
「ボクは、瑠羽ちゃんが好きなんだ。
ケチを付ける程の理由だよ。」
蓮は真顔で答えた。
「いや、そんなの理由にならないだろって!
そんなん、誰だって納得いかないだろ。
お前が彼女を好きなのは分かるよ。
でも、それとこれとは別の話だろ?」
蓮は大和から視線を外し、怪訝そうな顔をしていた。
「なぁ、蓮。
私情を挟みながらじゃ、この仕事はやっていけないぞ?」
「わざわざ、説教する為に呼んだの?
ボクの事なんて、どうだっていいじゃん。」
大和は純粋に蓮を心配していた。
俳優として、人気が上がってきて、頑張っている蓮を応援していたからこそ、諭そうとしていたが、蓮には何も届かないのかと、ショックさすら感じる。
「説教とかそんなんじゃなくて、心配してるんだよ、蓮の事。」
「……したよ。
ちゃんとキスシーンしたよ!
何か頭とか心とかずっと、モヤモヤしてるんだ。
ボク、疲れてるんだ。
もう放っといていいよ。」
蓮は悲しそうに眉を下げながら、大和に思いをぶつける。
「お前…どうしたんだよ。
何かあったんだったら聞くぞ?」
大和が心配そうに問いかけると、更に蓮は顔を歪めた。
「…ボク、帰るね。」
蓮はスっと立ち上がり、
「おい!蓮!」
大和の呼び掛けに振り向く事無く、店を後にした。
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