25

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ

25

蓮は一体どうしてしまったのだろう。 疲れている。 本当にそれだけだろうか。 帰宅した大和はどっと疲れを感じ、ソファに寝転んだ。 テレビも付けず、シーンと静まり返った部屋で、ソファに寝転んだまま、そっと目を閉じる。 蓮とは食事目的であったのに、結局、彼は飲み物を少し飲んだだけで帰ってしまった。 1人になった大和はそこで食事をする気にもなれず、蓮が帰った後、すぐに店を出た。 帰り際、タクシーの中で 『何かあったんなら言えよ。』 蓮にメールを送ったけれど、返信はない。 その時、大和の携帯が着信を知らせた。 画面を確認すると、相手は恭太だった。 偶然、恭太とモモに街で再会し、瑠羽に連絡先を渡してもらうよう様に頼んだ時、大和は彼とも連絡先を交換していた。 交換して以来の初めての連絡だ。 「もしもし?」 「あ、お疲れ様です。 今、電話大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ。 どうした?」 大和は、ソファに座り直し、恭太の声に耳を傾ける。 「あの…今日、木下さんが出てるテレビ見ました。 蓮も出てたじゃないですか?」 「うん、そうだね。」 「何か話しました?」 「ああ、うん。軽くね。 あ、その後飯行ったよ。」 「そうなんですね。 どんな感じでした? 蓮…大丈夫そうでしたか?」 大丈夫そうだったか そうに聞かれると大丈夫ではないと思う。 でも、なぜ恭太が、そんな事を聞くのだろう。 やはり、何かあったのだろうか。 大和は少し間を空けた後、 「何かあったのか?」 静かに問いかけた。 蓮はたまたま動画サイトでRose thornsを見掛け、瑠羽に一目惚れしてから、幾度となくライブに足を運んでいた。 初めは全く受け入れてなかった瑠羽も、蓮の素直さや明るさに徐々に心を開いていっていた。 蓮が瑠羽に見せる愛情表現は、関心する程素直なもので、瑠羽はいつも困った様に、断っていたが、彼を拒絶する事は無かった。 これまでは十分に時間が取れた時だけ、ライブに足を運んでいた蓮は、徐々に、俳優としての仕事が増えていき、前ほど、来れなくなったと嘆いていた。 元々、幼い頃からの夢だった、俳優という仕事。 それが、充実してくるのは蓮としても喜ばしい事であったはずなのに、彼は、本当に瑠羽の事が好きなのだろう。 忙しくなればなるほど 瑠羽に会う時間が取れなくなればなるほど 蓮の様子は変わっていった。 時間が取れない事が、蓮の心の余裕を奪っていく。 彼は、忙しい中、無理矢理に瑠羽に会いに来る様になり、更に、妙な執着心を見せ始めた。 そんな、蓮に不穏な胸騒ぎを感じ始めていたが、彼はとある出来事を引き起こす。 それは、ごく最近の事。 連続ドラマの主演が決まり、蓮はとても喜んでいた。 しかし、同時にプライベートの時間が思う様に取れないことを、蓮はとてもストレスにも感じていた。 長い時間が確保出来ない蓮は、その中でもRose thornsの元へ顔を出していたが、そんな彼をメンバーは心配そうにしていた。 時折、ボーッとしていたり、少し痩せた様に思えた蓮に、 「無理して来ないで、今は仕事に集中した方がいいんじゃない?」 困った様に瑠羽は言った。 すると、 「なんで? ボクが来たら迷惑なの?」 蓮は噛み付く様に返す。 さすがに瑠羽も唖然としてしまう。 心配しているのに、言葉を素直に受け取ってくれない。 被害妄想 疑心暗鬼 今の蓮はそんな様子が伺えた。 精神的に不安定になっているのかもしれない。 こんな状態で仕事は出来ているのだろうか。 心配そうに見つめるメンバーに、蓮は、撮影真っ只中のドラマの現場の話をし始めた。 主人公の高校生が様々な困難にぶつかりながらも、周りの友人と協力して乗り越えていく、青春もの。 絆を全面に押し出した作品で、友情だけではなく、主人公の甘酸っぱい恋愛模様も描かれている。 他の場面は問題なく順調なのに、何故か恋愛に関する撮影では、何かがしっくり来ない。 そこは、監督にも再三と指摘され、蓮は強いストレスを感じていた。 新しい台本を渡され、読んでみると、そこには主人公の意中の相手とのキスシーンが描かれていた。 蓮は、そこでこれまでのチグハグだった謎の感情がカッチリとハマった気がした。 自分は瑠羽が好きだ。 自身の恋愛の相手は、共演者の女優なんかではなく、瑠羽であるはず。 何故、瑠羽では無い人とキスシーンなどしなくてはならないのか。 蓮は、現実と物語がごちゃごちゃになってしまっていた。 恭太は、静かに、それでいて声の節々に悲しさも含ませて、ここ最近の蓮の様子を大和に語った。 大和はそんな話しを聞いて、いやに納得してしまう。 不安定 確かにその言葉がしっくり来た。 こちらの意図とは違う言葉の汲み取り方をする事で、上手く会話が噛み合わない。 思い込みで怒ったりもしている。 少し前からそんな様子が確認されていたから。 恭太は、蓮の様子を気になってしまう程の出来事があったと、更に大和に語り出した。 蓮は、キスシーンをしたくないと監督に告げ、揉めてしまったと、Rose thornsのメンバーに言った。 何と声を掛けるのが正しいのか 分かりかねたメンバーは、それでも、蓮に真摯に向き合おうと考えていたが、 「もう、俳優辞めようかな~。 今後、ラブシーンとかやる機会もあるかもしれないしさ、ボクには無理だ。 Rose thornsのマネージャーにしてよ。 そしたら、瑠羽ちゃんとずっと一緒にいられるし!」 笑顔で言ってのけた蓮のその言葉で、 「蓮…いい加減にしろよ!」 いよいよ瑠羽が怒りを爆発させてしまった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!