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瑠羽が上げた怒声で、その場は静まり返る。 「俳優は、蓮の夢じゃなかったの? なんで、そんな簡単に辞めようかなとか言う訳!?」 「確かに俳優になるのは昔からの夢だったよ。 でも、今はそれよりも瑠羽ちゃんが好きなんだ! 瑠羽ちゃんといられるなら、ボクは何にもなれなくたっていいし、何もいらない!」 そう反論する蓮に、瑠羽は悲しそうに顔を歪ませた。 「蓮、もう…会いに来ないで。」 瑠羽は、蓮から顔を背け呟いた。 「どうして!?」 「想ってくれるのは嬉しいよ。 でも、私といる事で、悪い影響しか与えないなら、会うべきじゃない。 そもそも、そんな事を平然と言ってのける蓮に、何の魅力も感じないし、何度来られたって、私は蓮を好きにはならない。」 吐き捨てる様に瑠羽は言うと、部屋から出ていってしまった。 その後を追おうとした蓮だったが、恭太達メンバーに止められてしまった。 「なぁ、蓮。 疲れてる状態であれこれ考えても、悪い方にしかいかないよ。 休める時は体も頭もちゃんと休めた方がいい。」 恭太は、蓮の両肩に手を置き、静かに語りかけた。 「申し訳ないけど、今日は帰ってくれるか? 俺達にとって今は大切な時期なんだ。 …あんまり、うちのギタリストを悩ませないでくれ。」 眉を下げ、悲しそうな顔をしながら、懇願する恭太の顔を、蓮は呆然と見つめていた。 「ボク邪魔者…?」 虚ろな目で、ごくごく小さな声で呟くと、蓮はフラフラとライブハウスを後にした。 来年にはインディーズデビューを控えているRose thorns。 ようやく、夢へと前進する。 今の時期に予定されている、色々なライブハウスでのイベントや、インディーズレーベルでの活動にあたっての新曲作りや、打ち合わせ。 アマチュアバンドと言えど、多忙を極めていた。 そんな中、妙なゴタゴタは避けたい。 恭太はそんな風に考えた。 蓮が瑠羽を好きなのは構わない。 ただ、異様な空気感で瑠羽を困惑させるのは、正直辞めて欲しい。 「蓮は友達として大事に思ってはいるんですけど…やっぱり、俺の1番はバンドを守る事だし…」 恭太は、声のトーンを暗くしながら、大和にそう言った。 「うん。分かるよ。 恭太は間違ってないよ。」 精神的に不安定になっている蓮を、突き放す様に帰らせた事。 恭太は、罪悪感を感じているのだろう。 だから、その後の蓮の様子が気になり、大和に電話をしてきたのだ。 「後で連絡してみるから。 あんまり、考えすぎない方がいい。」 大和は優しくそう言うと、 「ありがとうございます。 …すみません…」 恭太は弱々しく声を発し、2人はしばらくして電話を切った。 電話を切り、再び包まれる静寂の中、大和は大きくため息を着いた。 あいつは何をやっているんだ 友人として 同じ俳優として 蓮に対して無性に腹が立ってきた。 ようやく掴んだ俳優としての夢 若手として注目されている今だからこそ、がむしゃらに頑張らねばならない。 その中で、嫌な事も辛い事もたくさんあるだろう。 時にはメンタルが保てず、全てが嫌になる事だってあるだろう。 大和自身も、辛い事から1度は逃げ出した。 だから、蓮の気持ちも分かる。 けど、蓮はその自身の不安定さに、凄く好きだと豪語する相手を巻き込もうとしている。 それが1番腹立たしかった。 大和は蓮の事も気がかりではあったが、瑠羽が心配で仕方なかった。 彼女は頻繁に連絡をくれる様になったけど、そんな事があったなんて一言も言ってこない。 強い人であるけれど、時折、無理をしてしまう瑠羽。 そんな彼女を想うと胸が痛んだ。 ふと時計を見ると、既に夜の12時を回ろうとしていた。 大和は瑠羽に連絡を入れようか迷い、明日にしようと、手に持っていた携帯電話をテーブルに置いた。
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