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28
帰省先で瑠羽に会う事。
偶然出来た約束は、大和にとって嬉しい予定となった。
彼女にとったら、愛する人が生まれ育った街を散策するのが目的で、自分はいてもいなくても、どちらでもいいのかもしれない。
ウタが歩いただろう道
ウタが訪れただろう場所
今は亡き彼を想いながら、行動する事で、今はもう感じれない何かを心に宿す。
その手助けが出来れば、それでいい。
彼女がウタを想い続けていくのだとしても、笑っていてくれたら、それでいい。
ただ、それだけだったのに
交わした約束がとんでもない事態を招く事になるなんて
その時は想像すら出来なかった。
12月31日
その日は夕方まで仕事だった。
仕事を終え、1度自宅に戻ると、帰省用に準備していた荷物を持ち駅へと向かった。
普段よりは混雑しているが、帰省ラッシュは過ぎた様だった。
きちんとした帰省は上京してから初めての事。
予定を決め、実家に連絡を入れると、母親が嬉しそうに、ご馳走いっぱい作るね!と張り切っていたのが印象に残った。
大和は地元の友人達にも連絡を入れた。
すると、みんなで集まろうと、声を掛けてくれた様で、ちょっとした同窓会の様なものまで開いてくれる事になっていた。
こんな年末年始を過ごすのは本当に久しぶり。
普段の忙しさから解放され、身も心もリラックスしていた。
その日の夜に地元に到着した大和は、暖かく迎え入れてくれた両親と共に、ゆったりとした時間を過ごし、次の日は久しぶりに集合した仲間達と盛り上がった。
その中には、かつてのバンドメンバーもおり、最初は気まずさもあったが、時間と共に、昔を懐かしめる程の距離感となった。
大和はウタの出ていたライブのDVDを送ってくれた友人―橋本 聡一郎を見つけると、改めて礼を述べた。
「全然ええよ。
ウタさんが出とったんはだいぶ前やし、見つけるの苦労したけどな。」
「そうよな~
もう何年前や、あれ。
けど、ほんま助かったわ。」
両親や友人と会話をしていると、自然に生まれ育った街の方言が出る。
こうしていると、普段、東京で俳優として生きている自分が不思議にすら思えてくる。
「ウタさん…懐かしいな。」
聡一郎が物思いに耽るように呟いた。
彼は、大和とは別のバンドで活動していた。
大和達のバンドが解散した後も、活動は続けていたが、数年後に解散、今はライブハウスに勤めていた。
ウタとは比較的、接点を持っていた様で、上京後、病気になった事、数年前に他界していた事も知っていた。
「そういえば、当時、ウタさんと付きおうてた子が、バンドでインディーズデビューするんやで。」
聡一郎は大和にそう言った。
瑠羽の事も知っているのか。
「お前、よう知っとるな。」
驚いた大和は、感心したように返した。
ライブハウスに勤めているだけあって、今でも音楽を愛する彼の元には様々な情報が集まる。
それだけではなく、Rose thornsは自分達の足で全国ツアーと銘打ち、各所をライブしながら、回ったりもしていた。
その時、聡一郎の勤めるライブハウスに出演したこともあって、より興味深く情報を察知する事になったのだ。
そして、その更に前の事。
生まれ育ったこの街で、ウタの葬儀が行われた際、彼は瑠羽に会っていた。
早くに両親を亡くしていたウタの葬儀は、親戚を中心に執り行われ、多くの友人が集まった。
会場の隅にいた若い男女の4人。
その中にいた女性は、光の無い瞳で、ただ呆然と床を見つめていた。
その時は直接声を掛けられなかったが、東京でウタが力を入れていたバンドで、その女性は、彼の恋人だと言うことを、人伝いに知った。
「魂が抜けた様な顔でな…
周りのメンバーが守る様に立ってたんが、よう記憶に残っとる。」
聡一郎は、当時の記憶を蘇らせ、顔を歪ませた。
「あの子がバンド続けてて、もう少しでインディーズデビューとか、何や、感慨深いものがあるなぁ。」
聡一郎は安堵感の溢れる笑みをこぼした。
「実はな、その子の為やねん。
ウタさんのDVDを探してくれ言うたんは。」
大和はそんな聡一郎に微笑みながら言った。
「え!?
お前、あの子と知り合いなんか?」
「あぁ。たまたま知り合うてな。」
そうかそうか
聡一郎は、更に笑みを浮かべ、近くにあった自身のバッグを漁った。
「DVD探しとる時に出てきてな。
お前に見せるつもりで持ってきたんやけど、これも、あの子にあげてや。」
そう言って、聡一郎は、大和に透明のフィルムに入れられた写真を手渡してきた。
大和がライブハウスに立っていた当時、ライブハウス出演者で撮った写真。
数十人と映り込むそれの真ん中辺りにウタも写っていた。
「懐かしいなぁ…
ありがとう、喜ぶよ。」
大和はしばらく眺めた後、それを大事そうにバッグにしまった。
翌日に瑠羽に会う大和は、思わぬお土産が出来たと、嬉しく思った。
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