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彼女の第一印象はとても悪かった。
それは、初めて会ったその日の関わった時間だけでは拭えない程の印象の悪さ。
元々、テンションの高い方ではないのだろう。
それでも、仲間内では、若干の気の強さは感じるものの、穏やかな雰囲気だった。
だから、人見知りが激しいのだとも思った。
でも、終始彼女から受け取れる感情は、正に『無関心』
ただ
彼女はとても美しい人で、それは容姿端麗な人が多くいる芸能界に身を投じる大和でも、魅了されてしまう程。
そして、彼女の奏でる音は、荒々しいながらもどこか神秘的で、まるで天使の様で…
だから、少し腹立たしく思った。
3ヶ月前6月某日
「これを持ちまして、木下さんクランクアップとなります!
お疲れ様でしたー!」
スタジオに響くスタッフの声を皮切りに、拍手と労いの言葉が飛び交う。
監督が花束を持ち、大和に手渡すと、2人は固い握手を交わした。
翌年公開を予定している映画の撮影。
大和は高校の先生役で主演。
女生徒との禁断の恋を描いた作品であった。
無事に撮影を終えたその日、大和は共演者である佐山 蓮から食事の誘いを受けた。
佐山 蓮は大和の3歳下、24歳の俳優である。
小柄で中性的な顔つきの蓮は、女性を中心に人気を得ている人気急上昇中の若手俳優であった。
今から数年前、蓮が俳優として注目を浴び始めた頃、2人が出演したテレビ番組で知り合った。
蓮は、大和に憧れを抱いていて、彼が声を掛けてきた事がきっかけである。
人付き合いも上手く、弟気質の蓮は、あっという間に大和と仲良くなり、友人関係となった。
今作が初共演となり、蓮はとても嬉しそうにしていた。
「お疲れ様~!」
蓮の音頭で2人は頼んだビールのグラスを合わせ、呑み始めた。
大和は勢いよくそれを呑むと、はぁ~と大きく声を漏らした。
蓮はその様子をフフっと軽く笑いながら、
「大和くん、お疲れ様」
グラスを持った手を顔の高さまで持ち上げ、労った。
「一時はどうなるかと思ったけど、何とか終わったな」
大和は感慨深げに呟いた。
今回の撮影で大和が演じた役
それは、普段の大和とはかけ離れた人物であった。
自身の事を多く語る事があまりないタイプで、物事に熱くならず冷静で穏やかな印象を多くの人に持たれている。
実際、これまで大和が演じてきた役も、どこかクールな印象のものが多かった。
しかし、今回、大和が演じたキャラクターは、絵に書いた様な熱血教師。
どんな事にも真っ直ぐ熱く取り組み、感情も豊かな役柄であった。
「結構監督にやられてたもんね。」
蓮は、撮影での様子を思い出し、少しだけ眉を下げ苦い笑みを浮かべた。
大和は渡された台本や、原作のあるものは見たり読んだりを何度も繰り返し、その人物像を掴んでいく。
自身の感情や考えなど必要ないと、その役になりきる役作りをしてきた。
だが、今回はだいぶ苦戦していた。
やはり、なりきるとは言っても、根底には自身の経験だったり、共感などがないと難しいのだと実感した。
物事に熱くなる
そんな感情が大和に無いわけではない。
ただ、そんな感情を表に出すことが出来なくなってしまっていたのだ。
「まぁ何はともあれ、無事に終わって良かったよ。」
大和は軽く笑って言ったが、このままじゃ駄目かもしれないと、少しだけ心に課題を残した。
その後、何気ない会話を交わしながら、2人はその場を楽しんでいた。
「そうだ!
一緒にライブ行かない?」
唐突に蓮が言った。
「ライブ?
誰の?」
「Rose thorns(ローズソーン)っていう、アマチュアバンド。
大好きなバンドなんだ。」
蓮は目を輝かせていた。
都内のライブハウスを中心に活動しているというアマチュアバンド、Rose thorns。
激しめのロックを演奏する、5人組のヴィジュアル系バンド。
「アマチュアバンドだけど、凄い格好いいんだよ。
来年にはインディーズデビューもするんだ。」
「へぇ。
なんか意外だな。」
Rose thornsの良い所を熱く語りだした蓮を見て、大和は少しだけ驚いた表情を見せながら呟いた。
蓮は、見た目だけではなく、性格も明るく少し甘えん坊の様な弟気質である。
いつもニコニコしていて、それでいて優しい蓮は、人の懐に入るのが上手なタイプで、大和もそんな彼に癒されていた。
そんなほんわかした彼がヴィジュアルロックを好きな事に少しだけ意外性を感じた。
「何回もライブに行って、友達になったんだ。
凄く格好いい人達なんだ。
大和くんになら、紹介してもいいかなって。」
ライブ観戦でテンション上げて、発散しようよ
それは、蓮なりの気遣いだった。
アマチュアバンド
メジャーデビューしたい
大きな会場でライブをしたい
きっとたくさんの夢を持った若者達なのだろう。
大和はそれを考えると、少しだけ気乗りしない感も拭えなかったが、蓮のせっかくの誘いを断るのも悪い気がして、見に行く事にした。
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