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32
蓮の発した言葉の後、一瞬だけ時が止まった様な感覚に陥った。
勢いよく叫んだ蓮の切らした息遣いだけが妙に響く。
腕を捕まれ藻掻いていた瑠羽の強ばった体の力が、その瞬間全て抜けた様だった。
「……離して……」
瑠羽は、無表情で小さく呟いた。
その次の瞬間、瑠羽は強い力で蓮の腕を振り払い、彼を突き飛ばした。
突き飛ばされた蓮は、呆気に取られながら、体勢を崩し、片手を地面に付けた形となった。
「何とでも好きに言えばいい。
正直、誰に理解してもらわなくても構わないとは思ってるけど、不愉快さとか怒りとか全部を通り越して、今、貴方に向けた感情が一切無くなったのを感じてる。
もう二度と私の前に現れないで。」
体勢を崩し、しゃがみ込んだ状態の蓮に冷ややかな視線を送りながら、瑠羽は静かに言った。
瑠羽と蓮の間に張っていた、繋がりの糸がプツッと切れてしまった様な、見下す視線のあまりの冷たさに、背筋がゾクッとした。
瑠羽はその場で踵を返すと、公園の入口とは逆方向に歩き出した。
「瑠羽ちゃん!待って!!」
蓮は彼女を追いかけようと、急いで立ち上がったが、そんな彼を大和は制した。
「蓮…とりあえず、落ち着いてくれ!
今はどうやっても、悪い方にしか転ばない。
だから、少し落ち着いてくれよ。」
大和は蓮を説得する様に言い聞かせると、少しここで待っててくれと、彼に言い、歩き出してしまった瑠羽を呼び止める為に、彼女の元へ走り寄った。
「瑠羽、待って!」
大和は、瑠羽の肩に手を置き、呼び止めた。
「今日はありがとう。
折角、色々してくれたのに、変な事に巻き込んでごめん。
1人で帰るから、気にしないで。」
瑠羽は、大和に顔を向けずにそう言った。
「いや!1人で帰るとか駄目だ。
こんな時間に、こんな場所で、そんな事させられない。」
「その辺でタクシーでも呼ぶよ。」
「俺が送ってくよ!
蓮も一緒にホテルなり駅なりに送ってく。
頼むから…1回みんな落ち着いてくれ。」
懇願する様に言う大和に、やっと瑠羽は顔をそちらに向けた。
今のこの状態で、それぞれを放っとけない。
強い責任感と
彼の持つ優しさ
瑠羽は、改めて大和をゴタゴタに巻き込んでしまっている事の申し訳なさを感じた。
「………蓮?」
先程まで3人がいた場所を見やった大和は、その場に蓮の姿が無いことに気がついた。
大和は、瑠羽に、ここで待っててと言うと、蓮がいた場所まで走って戻った。
「おい!蓮!!」
大和は眉間に皺を寄せ、あぁ!と呻きながら1つ大きな息を吐くと、公園の入口に向かって歩き出した。
瑠羽のいた方向に来ていないなら、公園に入るしか行く先は無い。
そんなに遠くへは行っていないはずだと、大和は蓮を探し始めた。
正直な所、これ以上、蓮と関わりを持ちたくないと思っていた瑠羽だったが、大和に迷惑を掛けたくないと、一緒に蓮を探した。
公園には、反対側にも入口はあるが、時間的にそこまでは行っていないだろう。
それならば、公園内のどこかに、隠れているはずだ。
大和は蓮に電話を掛けてみたが、電源が切られているのか、コールすらしなかった。
探せど探せど、蓮は見つからず、大和は再び大きくため息を着くと、その場にしゃがみ込んだ。
「大和…」
瑠羽は、しゃがみ込んだ大和の肩にそっと手を置いた。
その手に、大和は自身の手を重ねた。
真冬の外に長い時間いた為、瑠羽の手は冷えきっていた。
「…戻ろう」
大和は姿をくらました蓮を心配に思いながらも、いつまでもこの寒空の下に瑠羽を置いておくのも気が引け、その場を後にする事に決めた。
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