17人が本棚に入れています
本棚に追加
34
いつもと変わらぬ日常
そんなある日
突然、最悪な事態は訪れる事となった。
早朝からの仕事で、いつもの様に自宅まで迎えに来てくれたマネージャーの車に乗り込み、大和は流れる景色を眺めながら、その日に撮影されるシーンのイメージトレーニングをしていた。
撮影に使用するスタジオに到着した所で、マネージャーに電話がかかってきた。
応対するマネージャーの声が驚きから、神妙なものとなり、まだ車内にいた大和は何かあったのだろうと察する。
電話を切ったマネージャーは、困惑した様な表情で、後部座席の大和に振り返った。
「木下さん…」
「どうかしたんですか?」
「佐山さんが、行方不明らしいです…
最近、連絡とか取ってませんか?」
「え!?
行方不明!?」
電話は蓮のマネージャーからだった。
一昨日まで、普通にドラマの撮影をしていた蓮だか、昨日、自宅まで迎えに行ったマネージャーが電話をかけたが、繋がらず、困り果てたマネージャーは、何かあったのかもしれないと、管理人に言ってドアを開けてもらった。
しかし、蓮は自宅におらず、今も尚連絡が取れない。
昨日も今日もドラマやその他の仕事が入っていたが、急な体調不良と言う事にして、事務所の人間が探し回っている。
どうしたものかと頭を抱えている状態で、警察に捜索願いを出そうかと話しも出ているそうだが、ひとまず、仲のよかった人達に連絡をして回っていた。
「最近は連絡、取ってないです…」
あいつは、何をやっているんだ…
このまま、見つからなかったら、いつまでも隠しておける事じゃない。
どれだけの騒ぎになるだろうか。
そして、どれだけの人に迷惑がかかるだろうか。
大和は蓮に電話をかけてみたが、やはり聞こえるのは電話が繋がらないアナウンス。
発信履歴に並ぶ蓮の名前を見つめていた大和は、途端に胸の奥の方がザワザワしてくる感じがした。
仕事を投げ出して行方をくらませた蓮。
今どこで何をしてるのだろう。
目的はー
何かあったのだろうか
無事でいるのか…
とてつもなく押し寄せる負のイメージに心臓がキリキリと痛む。
こんな状態で仕事に挑まなくてはいけない事に、精神的な辛さを感じてはいたが、きちんとこなさなくてはと、大和は大きく深呼吸をした。
すると、突然脳裏に、瑠羽の顔が浮かぶ。
楽屋に移動してきた大和は、もう間もなくスタッフに呼ばれてしまうだろう、その短い時間に、恭太に電話をかけた。
その日、ライブがあるというRose thorns。
時間の無い中、蓮の状況を簡潔に話し、
「もしかしたら、瑠羽の所に連絡か、もしくは直接会いに行くかもしれない。
こういうのは、少し大袈裟かもしれないけど、しばらくは瑠羽を1人にしない方がいいかもしれない。」
大和はそう助言し、
「分かりました…」
緊張した声色で恭太は答えた。
何とか集中力を保ちながら、大和は仕事をこなしていく。
夕方、別の仕事場への移動の為、マネージャーの運転する車に乗車していた大和は、携帯電話に恭太からの着信が来ていた事に気がついた。
何かあったのだろうか
再び沸き起こる嫌な予感
自然と鼓動の高鳴りが大きくなってくる。
かけ直そうと思ったその矢先、何の気なしに付けられていた車内のテレビで放送されていた、夕方のニュースを見て、大和は愕然とし、持っていた携帯電話が手からすり落ちた。
『俳優の佐山 蓮さんが、知人の女性の腹部を刃物で刺し、その場に駆け付けた警察官に逮捕されました。』
女性キャスターによって読まれたその言葉と、
「人気絶頂の俳優 佐山 蓮
女性を刺し逮捕」
画面に入れられた衝撃のテロップ
大和は全身の血の気が引いて行く様だった。
現場でアナウンサーがリポートする映像が映し出される。
そこはRose thornsがよく出演しているライブハウスだった。
そして、事件の起きた時間の後に掛けられてきていた恭太からの電話。
どうか
どうか
見当違いであってくれ
報道が出ている以上、蓮が女性を刺してしまった事は事実。
その相手が瑠羽でなければ…なんて、他の人であれば…なんて、冷静に考えたら酷い考えではある。
それでも、その時の大和はそう願わずには居られなかった。
しかし、そんな願いは一瞬で崩れ去る。
被害者の女性の名前がテレビに映った。
『藍沢 瑠羽』
そう
それは、紛れもなく
瑠羽だった。
最初のコメントを投稿しよう!