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その日は夜の9時頃全ての仕事が終了した。 恭太に連絡を入れると、モモを含めたメンバー全員は、未だ共におり、そのまま泊まっていく予定だと言う。 1人でいたくない それぞれがそう思っていた。 大和は心が痛み、何と声をかけるべきなのか分からないまま、恭太の家へと向かった。 事件が起きたのは、ライブハウスの裏口付近だった。 タッチの差でライブハウスに到着したモモは、扉の近くに瑠羽の姿を発見し、走り寄った。 「モモ!来るな!!」 瑠羽はそんなモモに気がつくと、大きな声を上げ制した。 突然の言葉に意味が理解出来なかったモモは、一旦足を止めた。 そして、気がついた。 扉とは逆方向を向いている瑠羽の視線の先に、蓮が佇んでいて― その手にナイフが握られている事に。 「…蓮さん…」 その状況に、苦しくなるくらい鼓動が大きくなる。 高鳴る鼓動とは裏腹に、頭はその状況に理解が追いつかない。 なんだろう この状況は 何故、彼は手にナイフを…? そのすぐ後の事。 蓮は瑠羽に静かに歩み寄り、手に持っていたナイフを、瑠羽の腹に突き刺した。 歩み寄ってくる蓮から、逃げる訳でもなく、瑠羽は彼を受け入れるかの様に、最後には手を広げていた。 唖然とその光景を見つめていたモモは、瑠羽が浮かべた苦悶の表情に我に返ると、叫び声を上げ瑠羽に駆け寄った。 蓮にもたれ掛かる様に前のめりになった瑠羽。 その瞬間、蓮は勢いよく瑠羽から離れた。 瑠羽はよろよろとすぐ後ろにあった扉に背を付き、静かに座り込んだ。 「瑠羽さん!!!」 モモは、瑠羽に駆け寄り、しゃがみ込んだ。 瑠羽の腹部に刺さったナイフを見て、モモは見る見る間に青ざめていく。 携帯電話を取り出すが、手が震えて上手く操作出来ない。 「……モモ…… 向こうに…行ってろ…」 瑠羽は、苦しそうに顔を歪めながら、モモの肩に手を置き力を込めた。 「嫌です! あぁ…なんで…こんな事に…」 とめどなく溢れる涙。 それでも、モモは首を大きく横に振りながら、救急車を呼ぼうと携帯を操作しようとしていた。 「…ふざけんな!! 何なんだよ!? "ごめん"って何なんだよ!?」 瑠羽とモモから少し距離を空けて佇んでいた蓮が突如大声を上げた。 モモは唖然とした顔でそちらを振り返る。 「今まで突き放して来たくせに… ごめんて… 何なんだよ…」 蓮はそう呟きながら、フラフラと2人に近寄ってきた。 「…何を言ってるんですか… 蓮さん!! なんでこんな事をするんですか!?」 まぁいいか 確認しなくちゃ ボクの想いを― 蓮は、モモの問いかけには反応を見せず、小さな声で何やら呟いていた。 「…モモ… 向こうに……」 背中越しに感じる瑠羽の苦しい息遣い。 早く 早く 救急車呼ばないと…! 迫り来る蓮への恐怖 瑠羽を一刻でも早く救わなければという思い モモは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、震える腕を精一杯広げて、瑠羽を守ろうとしていた。 「だ、誰か―――! 助けて下さい!!!」 モモは大声を上げた。 ライブハウスの裏口は、大通りに面してはいなかったが、モモの声にチラホラと人が集まり始めた。 「誰か…救急車を! 警察と救急車を呼んで下さい!!」 騒然としている人達に向かって叫んだモモは、そこに遅れてやって来た恭太の姿を確認した。 「き、恭太さん!! 恭太さん!!」 座り込む瑠羽と彼女を護る様に腕を広げるモモ。 そして、歩み寄る蓮。 何が起きているのか把握出来ない中でも、最悪な状況であると直感で感じる。 「何やってんだ!!!」 恭太は、大声を上げ、真っ直ぐ蓮に向かって走りよった。 「離せ!!」 恭太に動きを封じられた蓮は、叫びながら暴れていた。 「瑠羽さんっ!」 暴れる蓮を必死に抑え込む恭太は、モモの叫び声を聞き、そちらに目を向けた。 静かに横たわる瑠羽 そして、腹部に刺さったナイフが見えた。 血の気が引いて行く感覚の直後、それとは逆に、今度は全身の血液が沸騰しているのではないかと思える程の熱さを感じる。 「お前がやったのか? …何を…やってんだぁ!!!」 恭太は、力を込めて蓮を押し進め、近くの塀に押し当てた。 思い切り塀にぶつけられた蓮は、小さく呻き声を上げた。 「なんで…こんな事を…? 何でなんだよ!?蓮!!」 自然と涙が溢れる。 恭太は、蓮を掴んだ手にグッと力を込めた。
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