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数日後 大和と蓮の休日 それとライブの日程が上手く重なった日 2人は夕方17時頃、ライブハウスへ向かった。 都内某所にあるライブハウス『depart』 蓮に案内され、人通りの少ない路地裏を進み、2人はライブハウスの裏口に到着した。 蓮は携帯電話を取り出し、操作していると、しばらくして扉が開いた。 「蓮さん、こんにちは。」 中から顔を出したのは、まだ10代にも見える1人の女性。 「モモちゃん」 蓮は彼女をそう呼び、ヒラヒラと手を振った。 「友達の木下大和くん。」 蓮は大和を紹介し、モモは 「初めまして」 と、会釈をした。 大和もそれに続く様に、会釈を返す。 それから、モモの案内でメンバーのいる楽屋へと向かった。 黒髪で前下がりのボブ メガネをかけた大人しそうな印象のモモ。 楽屋へと向かう途中、蓮はモモの紹介を軽くしてくれた。 服飾の専門学校に通うモモは、メンバーの衣装を作ったり、活動をしていく中での手伝い等をしている。 大和は、へ~と感心したように声を漏らすと、モモは少し恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、軽く頭を下げた。 しばらくして、モモはある部屋の前で立ち止まると、扉をノックし、 「入りまーす」 と声を上げると扉を開いた。 部屋の中には、黒を基調としたゴシック系の衣装を着用し、髪やメイクをバッチリとした男性が3人いた。 バンドメンバーであると思われるその3人は、楽器を触ったり談笑したりしており、入口から顔を覗かせる蓮を見つけると、 「あ!おつかれ~」 と、それぞれがにこやかに手を振っていた。 蓮はそれに同じ様に手を振り返し答えていたが、視線は部屋の中をキョロキョロと動かしていた。 何かを探すかの様なそんな行動を大和は不思議そうに見つめる。 そんな時だった。 「…邪魔なんだけど。」 突然後ろから声を掛けられる。 少し高めの女性の声。 大和と蓮が振り返ると、そこには、バンドメンバーと同じ様な黒の衣装を見に纏った小柄な女性がいた。 派手でキツめの化粧ではあったが、それでも分かる綺麗さ。 切れ長の眼力の強い雰囲気ではあるものの、まるで人形の様に整った顔立ち。 それは、思わず見惚れる程であった。 「あぁ…! ごめんね、瑠羽ちゃん!」 蓮はそんな彼女の存在を確認すると、一気にテンションを上げ、謝りながら場所を空ける。 瑠羽と呼ばれた女性は黙ったまま視線を向ける大和を一瞥し、表情を変える事もなく、部屋へ入って行った。 蓮はそんな彼女の後を追うように部屋へ入り、とても楽しそうに話しかけていた。 その姿はまるで主人を見つけた飼い犬の様で表情を輝かせ、大きく振られる尻尾が見えてくる様だった。 そんな蓮に対して、ほとんど表情を動かす事無く、対応する瑠羽。 2人の熱量の差が凄いな 大和は相変わらず入口付近に立っている状態でその様子を見ていた。 「木下 大和さんですよね?」 そんな大和に声が掛けられる。 大和はその声の方に視線を向けると、バンドメンバーの内の1人が大和の傍に立っていた。 金色に染めた髪の毛を四方八方に立たせ、口にピアスをつけていて、そのピアスと耳に付けられたピアスをチェーンで繋いでいた。 「ボーカルの恭太です。」 「あ、初めまして。 木下です。」 2人は頭を下げあった。 「蓮… 紹介しなくていいの?」 瑠羽はそんな様子を見て、溜息混じりに蓮を促す。 「あ!そうだよね!」 蓮は今になって大和の存在を思い出した様に声を上げると、 「ごめんね、大和くん。」 謝りながら、大和へ駆け寄った。 「みんな、紹介します! お友達で、俳優の木下 大和くんです。」 蓮がそう紹介をすると、 「木下です。 初めまして。」 大和は頭を下げた。 「初めまして。」 メンバー達も同様に挨拶すると、改めてそれぞれの自己紹介が始まった。 Rose thornsは Vo.恭太(きょうた) Gt.瑠羽(るう) B.直央(なお) Dr.悠介(ゆうすけ) の、4人からなるヴィジュアル系バンド。 全員が同い年の22歳。 ヴィジュアル系バンドらしい濃い化粧、黒い衣装と、見た目は少し怖そうな雰囲気もあるが、話をしてみると、とても人当たりの良さそうな印象を受けた。 ただ1人を除いて。 バンドの紅一点 ギターの瑠羽。 整った目鼻立ち 長いまつ毛に ふっくらとした唇 眉辺りで切りそろえられた前髪と胸元程の長さの綺麗な黒髪 彼女は、見惚れる程、美しい人だった。 それなのに 恐ろしく、愛想が悪い。 人見知りとも違う。 彼女は無関心そのものだった。 「いや~凄いな~ 人気の俳優さんが目の前にいるなんて。 やっぱテレビで見る以上に格好いいな。」 恭太がそう口にすると、周りのメンバーも同調する。 「ちょっと待って! ボクだって一応人気俳優なんだけど?」 蓮がそこに割って入り、 「あ、そうだっけ? いる事が当たり前過ぎて、忘れてた。」 恭太がそう返し、その場は和やかな空気が流れていた。 その中でも、瑠羽だけは我関せずといった感じで、モモと何やら話をしている様だった。 しばらくして、 「じゃあ、そろそろ席に行こっか。」 蓮は大和に促し、2人は部屋を後にした。 蓮はだいぶこの場所に足を運んでいるのだろう。 慣れた様に歩みを進める蓮に大和は付いていくと、階段を登り2階席に到着した。 2階席と言っても、普段は一般の客を入れることはない場所で、大和達の様な観戦しに来た有名人など、芸能関係者が通される場所だった。 この日はRose thornsのワンマンライブだった。 アマチュアと言えど、来年にはインディーズデビューを控えているだけあって、かなりの人気バンドの様で、客席はライブ開演を今か今かと待ちわびるファン達でひしめき合っていた。 「瑠羽ちゃんの事…気になる?」 蓮は唐突にそう切り出す。 「え?」 「大和くん、瑠羽ちゃんの事、結構見てたよね?」 蓮は静かに微笑んで大和を見た。 「あ~まぁ…気になると言えば気になるのかな?」 ある意味ね。 大和は心の中で言葉を付け足した。 飛び抜けた容姿と、圧倒的な愛想の悪さ。 色んなタイプの人間が居る中で、瑠羽みたいな人がいてもおかしくはないが、あまりにも周りを寄せ付けない感が凄くて、不思議にすら思う。 仮にも友人とされる蓮の連れとして来てるのに…。 「僕さ、瑠羽ちゃんの事が好きなんだ。」 思考を巡らす大和に蓮は静かに告げる。 それは、何となく分かっていた。 蓮の瑠羽に対する態度を見てれば、余程の鈍感でなければ、そこに行き着くだろう。 でも、大和は何だか違和感を感じていた。 蓮の自分へ見せる視線の強さに。 それは、蓮の瑠羽に対しての想いの強さと言うのとは 少しだけ違う気がした。
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