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ギターをかき鳴らして、音を奏でる真剣な姿に見惚れる クールそうなのに、時折見せる無邪気な笑顔が好き 豪快に見えて音を大切に弾く繊細さが素晴らしい Rose thornsはかっこいい 一生ついてくから、大きな景色を見せてくれ 大好き 早く帰ってきて 無事でよかった 大好き 負けるな 大好き 「闇に埋もれた言葉達だよ。」 呆然と見つめる瑠羽に、大和はそう言って微笑んだ。 これらは、Rose thornsの、そして、瑠羽のファンの言葉の一部だった。 彼女を叩く悪意は、大きなモンスターの様で、瑠羽だけでなく周りも巻き込んで闇の中に引きずり込む。 でも、その中で確かに光は存在している。 自身の危険も顧みず、瑠羽を守ろうとしたモモ。 回避出来なかったのは自分のせいだと自身を責める恭太。 心配し、気を落とす他のメンバー。 「みんな、瑠羽の事を想ってる、瑠羽の仲間で、味方だよ。」 大和に握られた瑠羽の手にグッと力が込められたのが分かった。 1度闇に飲み込まれると、発している光に気がつけないし、気がついたとしても、霞んでしまう。 なかなかそこから這い上がるのは難しい。 それでも、信じて欲しい。 霞んでしまう程の小さな光は、誰の為に灯りを灯そうとしているのか。 感じて欲しい。 光を発する人達の想いを。 瑠羽の瞳からは大粒の涙が溢れ、握られた大和の手を自身の身体で包むようにしながら、やがて声を漏らして泣き出した。 「みんな、瑠羽の復活を待ってる。 負けるな、瑠羽。」 瑠羽は、変わらず泣きながら、何度も何度も頭を縦に振った。 「…あ」 しばらくして、病室を後にした大和はロビーの辺りでこちらへ手を振る男女数人と出くわした。 それは、恭太とモモを含むRose thornsのメンバーだった。 「木下さんも来てくれてたんですね。」 少し痩せた様で、疲労感も伺える恭太は、それでも笑顔を浮かべ、大和が来てくれた事を喜んでいた。 大和は、ちょっと話せる?と恭太に声を掛け、他のメンバーだけが病室に向かった。 「こんな事になって、瑠羽はもちろんだけど、恭太達もかなりキツイよな。」 「そう…ですね。」 恭太は、苦笑いを零した。 「でも…」 恭太は、大和に真っ直ぐ視線を向けた。 それは、とても強い意志を感じさせる、目の力だった。 「俺は諦めたくない。負けたくない。 俺達4人で、Rose thornsとして、道を歩みたいんです。」 大和はその言葉に、優しい笑みを浮かべて耳を傾けた。 「たけど、それは俺のエゴなのかもしれないとも思うんです。 こんな事になって、瑠羽は俺達に弱音なんて吐かないけど、精神的に堪えてるのは分かっていて…。 一緒に頑張ろうって伝える事が、正しい事なのか分かりません。」 恭太は、悲しげに顔を歪ませ、少し俯いた。 大和はそっと恭太の肩に手を置いた。 「恭太の想いを、そのまま彼女に伝えてあげたらいいよ。 4人で頑張りたい、諦めたくない、負けたくない。 それは、今の彼女にとって、1番の救いの言葉だと思うんだ。」 その言葉が、恭太にとっても救いになり、彼は安堵した様な安らかな笑みを浮かべて、 「ありがとうございます。」 そっと、頭を下げた。 こんな事になってしまったのは、瑠羽が悪い訳では無い。 しかし、きっかけが彼女にある事は間違いなく、それは、Rose thornsとして歩む道筋を先の見えない暗闇に落とす事になってしまった。 それでも、彼らは互いを思い合い、そこには確かな絆があるのだと、大和は実感していた。 これで、全てが丸く収まったとか、もう心配はいらないとか、そんな生易しい状況ではないのは確かだが、この苦難を乗り越える為の礎にはなるだろう。 大和は少しの安堵感を感じながら、病院を後にした。 その日の夜 瑠羽の見舞いを済ました後は、どこにも出かける気にならなかった大和は、帰宅しそのまま、ゆったりとした休日を過ごしていた。 瑠羽から、恭太達と話をし、バンド活動を続ける決意を新たにした事、そして、ありがとう、と礼を述べる連絡が来た。 『大和にはなんでも言えてしまう気がする。 弱い部分も見せれてしまう不思議な感覚。 寄り添ってくれてありがとう。 大和は本当に優しいね。』 瑠羽は、メールの中でそう綴っていた。 誰にでも優しい訳じゃないよ 少しだけ苦笑いを浮かべたが、多少でも立ち直って前を向けている様で、そこに関しては、ホッと胸を撫で下ろし、安心感を覚えた大和だったが、心の中に蔓延るモヤの様なものに顔をしかめる。 その原因は、蓮に関する新たなニュースのせいだった。 現在、留置所に拘留されている蓮は、殺意を持って瑠羽を刺した事を認めており、裁判の後、実刑判決が下るだろうとされていた。 しかし、ここにきて、蓮の弁護士側から、当時の彼の精神状態への指摘が出された。 蓮は、瑠羽に対しての殺意の動機を、 『彼女がいなくなった時の自分の感情を知りたかった。 この世にいない存在を想い続けられるか、自身の愛の深さを測りたかった。』 そう語っていた。
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