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そんな思考になってしまうのは、きっとこの暗い部屋のせいだ。 そう分かっているのに、大和は電気も点けず、ソファに座り込み思考を更に深い所へと潜り込ませようとしていた。 その時、テーブルに置かれていた大和の携帯電話が着信を知らせた。 暗い部屋に灯された、携帯電話の光を少しの間だけ見つめ、やがて静かに手を伸ばした。 着信の相手は恭太だった。 電話に出た大和に、恭太はまず礼を述べてきた。 瑠羽は、迷惑をかけてしまった事を詫び、それでも、もう一度頑張りたいと頭を下げてきたそうだ。 恭太もメンバーも、みんなで頑張ろうと手を取り合った。 「本当にありがとうございます。」 何度も礼を告げてくる恭太に、 「お礼を言われる事なんてしてないよ。 でも、良かったよ。」 大和は苦笑いを浮かべたが、嬉しそうに目を閉じた。 そらから、話題は蓮の事になった。 恭太は、蓮と面会をしようと考えていた。 しかし、鑑定留置の為、病院に移送される事になった蓮は、面会が拒絶となったそうだ。 瑠羽が襲われた事への怒りはもちろんあった。 しかし、それでも恭太は、蓮を完全に拒絶する事は出来ず、むしろ気にかけていた。 「そんな風に考えるのは、瑠羽が生きていたからなのかもしれませんけどね。」 共に過ごした時間 楽しかった思い出 暖かな記憶 根っからの悪い奴ではないと、分かっているからこそ、何とか蓮にも前を向いてほしい。 有罪になろうと精神状態の理由で無罪になろうと 刑務所へ行く事になっても、そのまま入院する事になっても 結局は立ち上がるのも、内に閉じこもるのも、全て蓮次第。 蓮の瑠羽へ向ける強い愛情を思うと、どの様に考えを持つべきなのか― それは、正解なんてない難しい問題なのは分かっている。 でも、一つだけ伝えられるのなら 『みんな、蓮の事を大事に思っているよ』 そう言いたい。 電話口で語る恭太は少しだけ苦しそうに、それでもとても力強くそう言った。 大和も面会をしたいと考えていた。 しかし、面会謝絶の状況に、少しだけ肩を落とした。 蓮に立ち直ってほしい 自分が起こしてしまった行動の重さを受け止め、考えを改めてほしい 1番に思う事は 昔の蓮に戻ってほしい 大和も恭太と同様に考えていた。 正直な所、怒りや悲しみの感情は心の中で大きく渦巻いていた。 それでも、蓮の事を想えるのは、瑠羽や恭太の気持ちに大きく感化されていたから。 大和は、瑠羽を見舞いに行った際の出来事を思い返していた。 それは、彼女が現実に落胆し、涙を流した後の事。 大和の言葉に更に涙し、それが落ち着いてきた時、瑠羽は、 「蓮は…大丈夫かな」 ポツリと呟いた。 蓮が自分に大きな好意を抱いている事 そして、 最近の様子がおかしかった事 理解していたのに、結局何も出来ず、彼を追い詰めた。 瑠羽は、蓮が起こした事へのきっかけが自分にあると考え、申し訳なさを抱いていた。 「私が、もう少し上手くやっていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。」 苦悶の表情で俯き、呟く瑠羽に、 「瑠羽のせいじゃない。 蓮の気持ちにきちんと応えていたんだし、瑠羽が悪い訳じゃないよ。」 そう言って慰めながら、被害者なのは瑠羽の方なのに、 何故一言も責めたりしないのだろう 何故、そんなに優しくいられるのだろう 大和は疑問に思っていた。
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