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『相乗効果』 瑠羽とウタの関係は正にこの言葉にピッタリだった。 互いが互いをとても大切に想い、相手の為に何をすべきかを考え行動する。 それが、結果的に自身の飛躍に繋がっていた。 愛に溢れ 優しさに溢れ 2人でいると光を発しているかの様な錯覚を覚える程だった。 その光は周りの人間をも包み込み、穏やかで暖かい空間を作り上げていた。 だから ウタを失った時の瑠羽の絶望は計り知れなく、慰めの言葉など安易に掛けられる状態では無いくらいの精神状態であった。 もしかしたら、彼の後を追ってしまうかもしれない そんな恐怖を感じたメンバーは、四六時中、誰かしらは彼女の傍にいた。 思わず羽交い締めにしてしまう程、暴れ狂い 気を失ってしまう程、泣きじゃくり ベッドに横たわり、身動き1つせず、ただ一点を見つめる。 瑠羽の精神状態は、誰から見ても限界で、現状を打破する事など、誰にも出来ず、それぞれが疲弊感を抱えながら、ただ、流れる時間に身を委ねるしかなかった。 そんな状態のまま数ヶ月が経ったある日 瑠羽は再びギターを構え、ステージに立った。 ウタの死を消化した訳でも 気持ちが落ち着いてきた訳でもなく 『大きなステージからの景色をウタに見せる』 交わした約束を果たす その一心だった。 ウタを失った瑠羽は、彼に会う前の性格に戻ってしまい、更に輪をかける様に、仲間以外の他者への拒絶感、攻撃性が増していた。 限度も考えずにギターの練習に明け暮れ、鬼気迫る雰囲気でステージに立つ。 確かに技術面では向上していたかもしれないが、その状態がずっと続けられるはずは無い。 そもそも、瑠羽は音楽を楽しめていない。 恭太は活動を止めるという選択肢が頭を掠める様になっていた。 そんな時 ライブハウスのプロモーション動画を見て、会いに来たという、俳優が現れた。 それが、蓮だった。 蓮はとても明るく素直で、Rose thornsに会えた事、瑠羽に会えた事を喜び、距離感を縮め様と張り切っていた。 しかし、瑠羽の精神状態は、新たな出会いを受け入れられる程の余裕は無く、誰が見ても分かる温度差に、見てる側さえも苦しさを感じる程だった。 彼女に何があったのかなんて、むしろ、"何か"あったのかなんて蓮の知る所ではない。 それでも、拒絶感だけは確かにあって、会話すらままならない空気は穏やかになる兆しを見せる事は無かった。 彼が底抜けに明るいと言っても、さすがにそれを感じでいただろう。 だけど、彼は、頻繁に顔を出し、とにかく明るく接していた。 蓮の存在の明るさを感じながらも、心の傷から、接し方に戸惑い、逆にストレスを感じ始めた瑠羽。 ありがたいと感じながらも、あまりにも差のある空気感と、彼女がいつか爆発するのではないだろうかという、メンバーの不安。 そして、本当は優しい良い奴なのに、勘違いされてしまうかもしれない瑠羽の心証。 ある日、見兼ねた恭太は、蓮に現状を伝え、会いに来るのを控えてほしいと伝えた。 その中で恭太は、このままではバンドとしても成り立たなくなるかもしれない、率直な不安を吐露した。 「ボクは、音楽に詳しい訳じゃないけど、初めてRose thornsを見た時、本当に本当にかっこいい!って衝撃だったんだ。 楽しそうに歌って、楽しそうに楽器を弾いて… キラキラ輝いて、光に満ち溢れてるなぁって。」 蓮は、漠然と何かあったのだろうと感じていた。 だから、敢えて― 若手俳優として人気の出始めていた蓮は、それなりに忙しない日々の中で、Rose thorns、そして、瑠羽に笑顔でいてほしい一心で会いに来ていたのだ。 それから、Rose thornsは止まることなく活動を続けていた。 彼らが再び音楽を楽しんでステージに立てる様になったのは 瑠羽が少しづつでも、笑顔を見せれる様になったのは 毎日、確実に過ぎていく時間の中で、徐々に訪れる落ち着きと いつでも笑顔でいてくれた蓮のおかげだった。
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