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『今どうしてる? 元気にしてるか?』 いざ、手紙を書こうとすると、何から書き出せばいいのか… 少し書き出しては、苦笑いを浮かべて止める。 大和はそれを繰り返していた。 大和は、1度ペンを置くと、キッチンに向かい、温かいコーヒーを用意した。 それを飲みながら、リラックスする様に1つ息を吐くと、思ったままを書けばいい、と思い直し、再びペンを握った。 『蓮は、俺の事をよく思ってないかもしれない。 でも、どうか最後まで読んでほしい。』 何度もやり直した書き出しは、結局そんな文面で落ち着いた。 『今回の件が起きた時、世間は大騒ぎだったけど、それも徐々に落ち着いてきてる感じがするよ。 けど、蓮の事を特別に想う人達の心は深く傷付いて、もしかしたら、時間さえも止まってしまった様な感覚になっているかもしれない。 ファンの子達は、今の現状をちゃんと見据えて、認識して、罪を償ってほしいって考えてる。 そして、『俳優 佐山 蓮』の帰りを純粋に願ってるんだ。 これは、本当に尊い愛情だと思う。 なぁ、蓮。 瑠羽と会えない状況になって、彼女への愛に変化はあったか? 蓮がしてしまった事は、決して許される事じゃない。 だけど、人の想い方にやっぱり正解・不正解ないと俺は思う。 好きだから、どうしても手に入れたい。 好きな人とずっと一緒にいたい。 そう思うのは自然な事だ。 蓮 ごめんな。 俺、ずっと言えなかった事があるんだ。 俺も…本当は瑠羽の事が好きだ。 こんなカミングアウト、蓮は怒るかもしれないな。 けど、黙ったまま、隠したままの自分は凄く卑怯な気がして…。 俺はさ、あの子に笑っていてほしいんだ。 幸せでいてほしい。 俺と共にって言うより、本当にあの子自身に幸せでいて欲しいと願ってる。 それも、ひとつの愛の形だ。 瑠羽や恭太、バンドメンバーや、モモちゃん。 みんな苦しんでるよ。 自身が置かれた状況にじゃない。 これまで、友人として時間を共にしてきた、蓮を救えなかった事にだ。 もちろん、こんな事になって、怒りぐらい感じるだろう。 だけど、もっと何とか出来たかもしれないって、みんな自分を責めてる。 なぁ、蓮。 少しだけでもいいから、瑠羽の心に、彼女の想いに寄り添えないか? 彼女を好きだと言うのなら… 瑠羽がウタさんを好きだと言う気持ちも理解してあげてほしい。 最後まで読んでくれてありがとう。 俺も友人の1人として、蓮の帰りを待ってるよ。』 1度走り出したペン先は、あっという間に思いを綴らせた。 最後まで書ききると、大和は静かにペンを置き、自身の書いた蓮宛の手紙をじっと見つめた。 多くの人が蓮への想いを様々な形で綴っている。 それを彼が目にして、そして心に変化をもたらしてくれる事を切に願い、大和は丁寧に封をした。
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