17人が本棚に入れています
本棚に追加
46
『今どうしてる?
元気にしてるか?』
いざ、手紙を書こうとすると、何から書き出せばいいのか…
少し書き出しては、苦笑いを浮かべて止める。
大和はそれを繰り返していた。
大和は、1度ペンを置くと、キッチンに向かい、温かいコーヒーを用意した。
それを飲みながら、リラックスする様に1つ息を吐くと、思ったままを書けばいい、と思い直し、再びペンを握った。
『蓮は、俺の事をよく思ってないかもしれない。
でも、どうか最後まで読んでほしい。』
何度もやり直した書き出しは、結局そんな文面で落ち着いた。
『今回の件が起きた時、世間は大騒ぎだったけど、それも徐々に落ち着いてきてる感じがするよ。
けど、蓮の事を特別に想う人達の心は深く傷付いて、もしかしたら、時間さえも止まってしまった様な感覚になっているかもしれない。
ファンの子達は、今の現状をちゃんと見据えて、認識して、罪を償ってほしいって考えてる。
そして、『俳優 佐山 蓮』の帰りを純粋に願ってるんだ。
これは、本当に尊い愛情だと思う。
なぁ、蓮。
瑠羽と会えない状況になって、彼女への愛に変化はあったか?
蓮がしてしまった事は、決して許される事じゃない。
だけど、人の想い方にやっぱり正解・不正解ないと俺は思う。
好きだから、どうしても手に入れたい。
好きな人とずっと一緒にいたい。
そう思うのは自然な事だ。
蓮
ごめんな。
俺、ずっと言えなかった事があるんだ。
俺も…本当は瑠羽の事が好きだ。
こんなカミングアウト、蓮は怒るかもしれないな。
けど、黙ったまま、隠したままの自分は凄く卑怯な気がして…。
俺はさ、あの子に笑っていてほしいんだ。
幸せでいてほしい。
俺と共にって言うより、本当にあの子自身に幸せでいて欲しいと願ってる。
それも、ひとつの愛の形だ。
瑠羽や恭太、バンドメンバーや、モモちゃん。
みんな苦しんでるよ。
自身が置かれた状況にじゃない。
これまで、友人として時間を共にしてきた、蓮を救えなかった事にだ。
もちろん、こんな事になって、怒りぐらい感じるだろう。
だけど、もっと何とか出来たかもしれないって、みんな自分を責めてる。
なぁ、蓮。
少しだけでもいいから、瑠羽の心に、彼女の想いに寄り添えないか?
彼女を好きだと言うのなら…
瑠羽がウタさんを好きだと言う気持ちも理解してあげてほしい。
最後まで読んでくれてありがとう。
俺も友人の1人として、蓮の帰りを待ってるよ。』
1度走り出したペン先は、あっという間に思いを綴らせた。
最後まで書ききると、大和は静かにペンを置き、自身の書いた蓮宛の手紙をじっと見つめた。
多くの人が蓮への想いを様々な形で綴っている。
それを彼が目にして、そして心に変化をもたらしてくれる事を切に願い、大和は丁寧に封をした。
最初のコメントを投稿しよう!