47

1/1
前へ
/49ページ
次へ

47

3年後 6月下旬 大和は地元の"霞川公園"のベンチに座っていた。 時刻は夕方の5時。 この時刻でもまだ明るいが、平日の夕方ともなると、公園内に人影は少なく、風がざわめかせる木々の葉の音がやけにはっきり聞こえた。 川に隣接された公園の中の、その川がよく見えるベンチに、1人腰掛ける大和は、静かに日が暮れる様を感じながら、約束の時間を待った。 あれから 事件時の精神状態が挙げられていた蓮は、弁護士側の主張を一新し、罪を受け止め償いたいと発表した。 大和達の書いた手紙 そして、ファンからのメッセージ それらが、彼の心に届いた様で、精神的に病んでしまっていた事は否めないが、犯してしまった罪は、誰でもない自身のせいだと深く反省した様だった。 今回の件で迷惑をかけてしまった全ての人への謝罪 そして、身体へのダメージだけでなく、精神的にも大きな傷を負わせてしまった瑠羽への謝罪 全ては自身の心の弱さ、考えの甘さが引き起こした身勝手な行動で、瑠羽は責められる点など一つもないとして、これ以上の彼女への攻撃はやめて欲しいと懇願する内容のコメントが、所属事務所を通して出された。 そんな事件を起こしても尚、暖かい言葉を掛け心配してくれる人達への感謝の言葉も大切に綴られ、そんなタイミングでは、未来についての話など触れられる事は無かったが、メッセージを送った多くのファンは、気持ちが届いた事をとても喜んでいた。 『大和くん。 手紙、ありがとう。』 まさか、来るとは思っていなかった、彼からの返信はそんな言葉で始まっていた。 『たくさんの人からのメッセージを読んでいくうちに、何かが僕の中からスっと消えていく感じがしたんだ。 瑠羽ちゃんを刺してしまった後、警察に捕まり、否応なしに離れ離れになって、しばらくは瑠羽ちゃんの事しか考えられなかった。 ほら、やっぱり、僕の愛は本物だった。 そう思っていたけど、僕の掲げた愛は単なる依存。 欲しいものを、手にしなくちゃ気が済まない、駄々をこねた子供と一緒だなって、思ったんだ。 大和くんのカミングアウト… 正直、やっぱそうなんじゃん!って腹がたった。 けど、それで分かったんだ。 大和くんは、想い方に正解も不正解も無いって言うけど、僕のはやっぱり不正解だよ。 純粋に好きでいるつもりだったけど、大好きな人を傷つけて手にするものなんて、やっぱり、それは愛なんかじゃないよね。 ようやく、周りが見える様になって、僕はどれだけたくさんの人に愛されていたのか気がついた。 自分の犯した罪の大きさを受け止めて、償っていくよ。 ありがとう 大和くん。 また、いつか…』 ようやく、自分の声が、心が蓮に届いた。 彼からの返信を読んだ大和は、心がギュッと摘まれる思いでありながら、前をきちんと向いた様子をただ嬉しく思った。 瑠羽や恭太達がどのような内容の手紙を書き、そして、自分と同じ様に来たであろう返信の内容は、あえて聞く事ではないと、確認はしていなかったが、それぞれの表情に穏やかさが見える様になった事に、今回の件の収束を感じていた。 その後、蓮は殺人未遂の罪で実刑判決を受けたが、被害者である瑠羽の口添えもあり、多少の減刑もあり、懲役5年の判決が下された。 そして、瑠羽は― 順調に回復して行った瑠羽は、入院から数ヵ月後に無事退院した。 予定していたバンドのインディーズデビューは、騒ぎの大きさもあり、1度白紙に戻されたが、Rose thornsは立ち止まること無く、再びライブ活動を精力的に取り組んでいた。 彼女への悪意あるネットでの攻撃や、不本意な注目は、事件時よりは減少したものの、ゼロになる事はなかった。 それでも、前を向き、歩み出す決意をした彼女は、それをものともせず、以前と同様に、音楽を楽しみながらステージに立っていた。 そんな彼女が特別強い訳では無い。 瑠羽は、あの事件をきっかけに、周りに支えられてる暖かさや、力強さや、信頼を再確認し、少しずつ自身の弱さを見せる様になっていた。 1人で闘うのではなく 仲間と共に 大和は相変わらず好調で忙しない日々の中、彼らの元へ足を運び、頻繁に連絡も取り合っていく内に、自身も、彼女が踏ん張れる為の支えになれている事に喜びを感じていた。 そして、瑠羽が退院した翌年、Rose thornsは念願のインディーズデビューを果たした。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加