きのう、きょう…きのう

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夕食なのか、朝食なのか…早朝というよりは深夜と言ったほうがいい時間、私は一人シチューを食べている。 玄関の鍵を開ける音。同居していない母が、とても何気なく自然な様子で入ってくる。 娘の姿を認め、気の抜けた様子で、間の抜けた質問をする。 「なに、してんの?」 「シチュー食べてるの。」 なんとも説明のつかない間を挟んで、母は質問を続けた。 「なんで?」 「ユースケが作ってくれてたから。」 「…そっか。」 母は、何かを納得して、 「私も、頂こうかな。」 と、言った。 私とユースケは劇場で出会った。お笑いの専門劇場。そこにいけば、テレビで見る顔も、見ない顔も、基本、誰かは出ている劇場。 彼は深夜ローカルなどで見かけるピン芸人で、私は集中しすぎてうっかり笑うとこを忘れてしまう程にはお笑い好きの常連客。ある日劇場で起こった“新人ツッコミ気絶事件”で私達は出会った。 「お客様の中にお医者様はいませんか!」というキャビンアテンダントのようなユースケの呼びかけに誰も答えない中、たまたま前の週に縁あって応急手当講習を受けていた私が唯一手を上げた。 ユースケいわく「天使!」と思ったそうで、その日以来すっかりなつかれてしまった。
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