『それから』

8/8
前へ
/45ページ
次へ
    ◇  ◇  ◇  常に涙を浮かべて俯いていそうな〝あおい〟が瞳を潤ませたのは一度きり。    槇の態度から「自分はおかしいのか」と不安になったのだろうあの時だけだった。  そして、いつも強気で泣き顔さえ到底浮かばない蒼生の、あの涙。  が同じ人間だからだ。  「らしい・らしくない」など、簡単に判断できるものではない。  ……どちらが好きかとか、ここが違うとか。  この蒼生なら、あの〝あおい〟だったら、などというのも。  おそらく、それらすべては考えるだけ無駄になる。  これから先、ごく稀に思い出した際に「あぁ、そういえばそうだったな」などと懐かしむ、遠い記憶の中の一ページになって行くのだ。  槇にとっても、……蒼生本人にとっても。  そう、だから。  だから、もう何も迷う必要はない。  ──俺の『アオイ』は、ただひとりだ。                               ~END~
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

145人が本棚に入れています
本棚に追加