『それから』

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 蒼生のさっきの言動が、本当に無意識のものだったとするならば。  それは、どういうことになるのだろう。  この蒼生なら、絶対にしないし言わないだろう、実際にやらかした本人でさえ、信じられないと慌てるようなこと。  それでいて、あの〝あおい〟ならと納得できるような、そういうこと。  この蒼生の中に、二人がいる。  槇は確かにあのときそう感じたし、今もそう思ってはいる。  でもそれが、具体的にどういうことなのかまでは考えが及ばなかった。というより、あの時点では到底そこまでの余裕がなかった。  謂わば槇の頭だか心が、キャパシティオーバーしてしまったのだ。  まったく別の人格が、ひとりの身体に同居する、だなんて。  その意味を改めて考えてみると、まるで『二重人格』ではないか。  そうは言っても、あれから今までに蒼生が『二重人格』だと感じるようなことは一切なかった。  短い時間だからあくまでもその間は、でしかないが、それでも。
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