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◇ ◇ ◇
常に涙を浮かべて俯いていそうな〝あおい〟が瞳を潤ませたのは一度きり。
槇の態度から「自分はおかしいのか」と不安になったのだろうあの時だけだった。
そして、いつも強気で泣き顔さえ到底浮かばない蒼生の、あの涙。
ふたりが同じ人間だからだ。
「らしい・らしくない」など、簡単に判断できるものではない。
……どちらが好きかとか、ここが違うとか。
この蒼生なら、あの〝あおい〟だったら、などというのも。
おそらく、それらすべては考えるだけ無駄になる。
これから先、ごく稀に思い出した際に「あぁ、そういえばそうだったな」などと懐かしむ、遠い記憶の中の一ページになって行くのだ。
槇にとっても、……蒼生本人にとっても。
そう、だから。
だから、もう何も迷う必要はない。
──俺の『アオイ』は、ただひとりだ。
~END~
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