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声色と隠しごと
私はニュースの天気予報を見てがっかりした。時刻は7:時40分。デートの約束の時間まで残り20分。
昨日までデートを楽しみにしていた私を嘲笑うかのように降る大粒の雨たち。
これは空に電話しないとな……。
そう言いつつ、なかなか電話をかけれない。
電話が終わればもう声を聴けなくなるから寂しい。そんなこと、本人には口が裂けても言わないが。
腹を括り、電話をかける。
1コール…2コール…3コー
「もしもーし」
「あっ、空…」
「あれっ?なに美紅さん、元気なくなーい?」
「いや、元気はあると思う…笑」
私は電話越しに笑ってみたが、本当はすぐにでも寂しいと言いたかった。
「今日のデートの事なんだけど」
声が震える。楽しみにしていたデート。それが無くなるのが凄い嫌だ。追い討ちをかけてくるかのように大粒の雨たちは威力を増してきた。
「うんうん、無しな感じ?寂しいねえ」
「デートが出来ないのも寂しいけど……この電話が終わったら空の声聞けなくなるのももっと寂しい、かも」
よく言えたよ私。だが、言い終わった途端すごく恥ずかしくなった。
「美紅さんもそんなこと思うんやなあ」
「私だって人だし…」
そう言いながら、私は不貞腐れる。
「ごめんごめん、拗ねないで笑。俺も寂しいって思ってるから」
「ほんと?」思わず声色が明るくなる。
「ほんとほんと」
まさか空と同じ考えをしてたなんて。私もようやく「女の子」になれた気がした。
「あっ、ごめん。親帰ってきたからそろそろ電話切るね。またかけ直す」
「そっか、うん、またね」
ふぅ…っと息を吐く。
眠気が襲ってきた。自室に行き、その後は沈むかのように眠りについた。
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「今の通話相手、彼女さんでしょ?言わなくていいの?はい、薬。それと、予備の着替えね」
「うん。彼女には言いたくないんだ。ありがとう、母さん。」
(ごめんね美紅さん、俺今日雨が降らなくてもデート断る予定だったんだ。)
彼もまた、眠りについた。
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