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私は、蚊帳の中に迷い込んでしまいました。煙たくて、苦しくて蚊帳にしがみつきました。もうこれでおしまい…と思った時、少年が、そっと外に出してくれました。
私は蛍。お礼を言う言葉は持ちません。しかたがないので、気持ちだけ強く光って、少年の元を去りました。
あの少年は、あの離れでいつも寝ているのでしょうか、一人で。気になって、次の夜も、私は少年の元を訪れました。
「あ、蛍。また来たのかい?今日は蚊帳の中に入ってはだめだよ。」
少年は優しくそう言いました。
「僕の病はね、人にうつってしまうんだ。だからみんなにうつさないように、ここで暮らしているんだよ。蛍は大丈夫かな。」
こんな虫まで気遣ってくれる優しい少年は、きっと、ずっと話相手が欲しかったのでしょう。自分の身の上を話してくれました。母は少年を産んで亡くなったこと。父には今、新しい妻がいること。最近新しい弟が生まれたこと。病気になって以来、この離れで暮らしていること…。
「僕はね、たぶんもう長くは生きられない。治る薬はないのだそうだよ。ねえ、蛍、明日も来てくれるかい。」
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