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私は次の日もその次の日も少年のところに通いました。
「この庭にはね、池があったらしいんだ。もう水が涸れてしまっているけど。以前は、少し行ったところの泉から水を引いていたんだって。」
その泉なら知っています。私が生まれた場所です。
「その泉には毎年蛍が…そうか、君はそこから迷い込んだんだね。行ってみたいなぁ。君だけでもこんなに綺麗なのだから、沢山集まったらどんなに綺麗なんだろう。」
今夜も、泉のほとりでは仲間達の光が美しく揺れていることでしょう。
「君が羨ましいな。自由に空を飛べるのだから。僕はこんなだから、もう泉を探しには行けない。少し歩いただけで息が苦しくなってしまうんだ。もう少し元気だったなら、君に案内してもらったのに。見てみたかったなぁ、たくさんの蛍。一度で良いから…。」
そう言うと、少年は苦しそうに悲しそうに咳き込みました。
なんとかこの少年を泉に連れて行くことはできないでしょうか?ずっとこの場所で、涸れた池の水に思いを馳せて来た少年。彼に、私たちが水辺を舞う姿を見せてあげたい。
少年は、日に日に弱って行くようでした。なんとか出来ないか…と、どんなに考えても、言葉を交わすことさえ出来ない私に、何が出来るというのでしょう。
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