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私は少年に会うのが辛くなりました。
通うのを止めようと思いました…でもそうは出来なくて、いつもよりずっとずっと遅い時間に、そっと少年の様子を見に行きました。
少年の咳が聞こえます。蚊帳の中で丸くなって、静かに咳き込んでいます。でもその咳の合間になにか、聞こえます。
「ほー…た…る…こい…」
蛍を呼ぶ童唄です。私は、その場から飛去りました。そして、泉に戻りました。
泉のほとりには大きな大きな欅の木があります。その根元には小さな祠があります。
(神様、神様、どうかあの少年を助けてあげてください。)
するととても強い風が吹きました。欅の葉がワサワサ、ザワザワと揺れます。
(そこにはもう神はおらんぞ。)
欅の木でした。
(蛍が願いごととは珍しいな。)
私は少年のことを話しました。
(長年、祠の神とともに、人が祀ってくれたから、少しばかりならワシにも力はあるのだがな…ほれ。)
そういうと欅の木から翁の面のような顔をした老人が浮かびあがりました。
「まあ、この程度だよ。病を治すような力はない。所詮、神ではないからな。」
私はがっかりしました。
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