ヘアゴム

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 妄想をふくらました私は眼を開けると、持っていた傘をわきに置いて、尻に敷かれたあやとりゴムを手に取った。 (いや、マテマテ待て。これ、あやとりできるか?)  実際に手に持ってみると、あやとりできるほど大きくはない。いや、子供ならできるのか?  いちを私の手であやとりをやってみると、を作るのが限界だ。 (うん。あやとりゴムはないな)  妄想を否定した私は、目の前の変なヘアゴムを見つめてため息を吐いた。  これからこのヘアゴムをどうすればいいのだろうか。  また尻の下に置いておけばいいだろうか。いや、私が立ったあとにヘアゴムがあれば、私が落としたと勘違いされるかもしれない。  それに、またこの席だけが座れない状態になるかもしれない。 (そうだ。私が持っていってしまおう)  名案が浮かんだ私は、にんまりする口元を手で押さえて、ヘアゴムをカバンにつっこんだ。  人のものを勝手に捨てるのもしのびないし、かといってこんな変なヘアゴムを遺失物として届けても仕方ないだろう。  ならば、私が持っていってしまえば、全て解決するのだ。  カバンにつっこんだ手でそのまま、意気揚々と英語のノートを手に取った。まだある乗車時間を有意義に使うべく。
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