ヘアゴム

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“go to jail”  ぱっと開いて視界に捉えたのは、不吉な文言。刑務所行き。  ごくりと唾を飲みこみ、自分のものとしてしまいこんだヘアゴムを震える手で触る。 (落としものを自分のものにするって、犯罪だよね……)  私は犯罪者になんてなりたくない。  ならば、やることは一つ。遺失物として届けるしかない。  そう決めた私は、ノートをカバンに入れてヘアゴムを取りだした。  電車は降りる駅に近づき、私は駅員に渡す覚悟を胸にヘアゴムを握りしめて立ち上がる。  電車を降りて向かう先は、改札口横にいる駅員。 「これ、電車の中に落ちていました」  駅員はしばし眼をぱちぱちさせて、ヘアゴムを見つめた。  ゴミみたいな変なヘアゴムを渡されれば、当然の反応だろう。  そう冷静に考えだした私はその場にいるのが恥ずかしくなってきて、「すみません」と、去ろうとした。そのとき、 「ありがとう。落としものとしてお預かりしますね」  駅員がほほえんでくれ、私は肩の荷がすっと落ちたような気がし、踊りだしたい気持ちになった。  軽い足どりで駅舎の外へと出る。  と、雨が降っていた。そのとき私はようやく気づいた。 「あ、傘忘れた……」
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