第1話 愛

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食べるスピードはかなり遅かったが、量はそれなりに何回かおかわりを済ませ、3時間ほど掛かって(ようや)くひと段落した頃、母が此方に全く反応をしない父を見て不安げに首を傾げた。 「あぁ、父さんはご飯を食べないよ?」 そう答えると、母は俺の顔を見る。 理由が気になるその純粋な瞳は、まるで子供のように綺麗で(けが)れがない。 良く仕上がっている。 そんな母の頭をゆっくりと撫でると、空になった食器を片付けて台所に向かった。 ふと、父の後ろを通った時。 無意識に肘が座っている父の肩に当たる。 「あ、ごめん」 触れた小さな衝撃で父の頭はこちらを向き、そのまま俺の足元に転がり落ちる。 その姿を見た瞬間、母の顔はみるみると青ざめていった。 これはまずい。 せっかくあれだけ食べさせたのだ。 吐き出される訳にはいかない。 慌てて準備しておいたロープを取り出し、母の後ろへと回ると、首に巻きつけて勢いよく縛り上げる。 もがく母は、俺の手を強く引っ掻く。 血が滲み、ロープに俺の血が染み込む。 痛い、痒い。 だが、勿論それで力を緩める訳にはいかず、更に強く、強く縛り上げて行く。 そして、力が限界に到達したその時 《ゴキッ》 という鈍い音と共に、母は漸く静けさを取り戻した。 久々の体力作業に息は荒くなり、その場に崩れ落ちる。 コレは予想外の重労働だ。 ズボンのポケットにある薬を口に含み、母の残した水でその薬を流し込むと、大きく深呼吸をした。 さて、これで(ようや)く、人生最初で最後の親孝行が出来る。
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