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食べるスピードはかなり遅かったが、量はそれなりに何回かおかわりを済ませ、3時間ほど掛かって漸くひと段落した頃、母が此方に全く反応をしない父を見て不安げに首を傾げた。
「あぁ、父さんはご飯を食べないよ?」
そう答えると、母は俺の顔を見る。
理由が気になるその純粋な瞳は、まるで子供のように綺麗で穢れがない。
良く仕上がっている。
そんな母の頭をゆっくりと撫でると、空になった食器を片付けて台所に向かった。
ふと、父の後ろを通った時。
無意識に肘が座っている父の肩に当たる。
「あ、ごめん」
触れた小さな衝撃で父の頭はこちらを向き、そのまま俺の足元に転がり落ちる。
その姿を見た瞬間、母の顔はみるみると青ざめていった。
これはまずい。
せっかくあれだけ食べさせたのだ。
吐き出される訳にはいかない。
慌てて準備しておいたロープを取り出し、母の後ろへと回ると、首に巻きつけて勢いよく縛り上げる。
もがく母は、俺の手を強く引っ掻く。
血が滲み、ロープに俺の血が染み込む。
痛い、痒い。
だが、勿論それで力を緩める訳にはいかず、更に強く、強く縛り上げて行く。
そして、力が限界に到達したその時
《ゴキッ》
という鈍い音と共に、母は漸く静けさを取り戻した。
久々の体力作業に息は荒くなり、その場に崩れ落ちる。
コレは予想外の重労働だ。
ズボンのポケットにある薬を口に含み、母の残した水でその薬を流し込むと、大きく深呼吸をした。
さて、これで漸く、人生最初で最後の親孝行が出来る。
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