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03.まり、ちょっと気付く
ちょっと変わった気がするんだけどな、最近のお姉ちゃん。
なんか綺麗になった気がするんだけど、違うかなあ。何がどうって聞かれると困るんだけど。おまけに時々ちょっとぼんやりしてる時があったりもする。あのお姉ちゃんが。完全無欠の、まるでサイボーグみたいだったお姉ちゃんが。
「まーりっ。」
「あ、おはようさーや、おはようゆんべ。」
「どうしたの、珍しく考え事?」
ツインテールのさーやが聞いてくる。今日はレモン色のゴム、ご機嫌な証拠だ。
「うん、なんかうちのお姉ちゃん最近変わってきてさー。」
「えー麻さんが?何が?どこが?」
ゆんべがりんごを放り込みながら聞いてくる。
「ゆんべ、あんたまだ2時限目終わったばっかだよ。もうおなか減ってんの?」
「だってさ、陸部の朝練でいきなり5キロ走ったんだよー。」
「だからか、あんたさっき爆睡してたっしょ。」
「うん、もう眠くて眠くて。なんか寝に来てるみたい。今度パジャマに着替えようかな。」
「やめな、あんたが言うと冗談に聞こえないから。」
「さーや、うるさい。」
相変わらず朝から良いコンビだ。
「ねえ、麻さんってうちらより2年上だから17?」
「うん、一月になった」
「じゃあお年頃なんじゃない?」
「さーや、あんたそれ死語だってもはや。」
「えーっ、だってうちのお姉ちゃんだよ?ないっしょ。」
「あーだねー、麻さん、その辺すっごくクールっぽいもんね。」
と二人が頷く。
と、その時、
「いーじゃんけーち。バナナ一本くらいでいつまで根に持ってんだよー。サールさるさる、ブルーざる。」と
大音量が響きわたり、続いて
「あんた毎回…もう許せない、待て、待ちやがれこのゴールド野郎っ。」
という声が聞こえ、まさに噂をすれば影なお姉ちゃんが凄い勢いで私たち1年の廊下を走り抜けていくのが見えた。
「クール、ね…」
「うん、そう、ね...」
私たちは爆笑した。箸が転がってもおかしい年齢だ。一度始まった爆笑はなかなか収まらない。挙句涙が出てきた。
「腹筋いたーい」
「私もー。」
「誰か止めてー。」
お姉ちゃんはバナナが大好きなんだ。いつも吟味してその日学校に「連れて行く」(と言う)一本を選んでいる。それを奪うとは、さすがゴールドさん。私なんか怖すぎてとても出来ない。
「あれって、3年のビー部キャプテンの金子さんだよね?」
「麻さんと仲良いの?」
二人が不思議そうに訊く。
「うーん、不思議でしょ。でもよくケンカしてるし、笑ってるし。ゴールドさんと一緒のお姉ちゃんってちょっと不思議なくらい表情豊か。」
「あー、じゃあそれじゃない?相手はゴールドさん!」
と恋愛話が何より好きなさーやが目を輝かせている。
「え、嘘マジ?あの麻さんとお騒がせゴールドさんなの?」
「いやあ、それは無いと思うけど。二人違い過ぎるから…あるのか?でも?」
ほんとに?お姉ちゃん、ゴールドさん好きとかってあるのかな。
「いーんじゃん、ある意味美女と野獣的な?」
「さーや、あんたなんかちょっと違う。」
「うるさい、ゆんべは恋愛オンチなんだからリンゴ食ってりゃいーのよ。あっ、」
さーやの目が一瞬にしてハートになる。慌ててゆんべと私も廊下を見る。
すると、
「だーかーらー、ブルーのやつ、バナナバナナってしつけーんだよ。」
と大声でぼやいているゴールドさんが見える。その少し後ろにあの方が。
「お前がちゃんと謝ってねーからだろ。」
笑ってる。楽しそうに。もう輝きながら。
「あーん、もう行っちゃったー」
「一瞬だったよねー。でも朝からあの笑顔が拝めるなんて超ラッキー。」
「うん、次の数学、頑張れる気がする」
私たちはガッツポーズを作りながらそれぞれの席に戻った。
お姉ちゃんもなあ、ゴールドさんじゃなくてナイトさんならほんと凄いんだけどなあ。まあでも蓼食う虫もって言うし、好みはそれぞれだから仕方ないか。さあ、数学頑張んなきゃ。眠いなー、けど。
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