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06.追及からのチョーク
教室を出ようとしたら、ゴールドが手招きをしているのが見えた。
神妙な顔でおいでおいでをしている。イヤな予感しかしなかったが、あぐらをかいている机の横に立った。
「お前さー、土曜どうしたんだよ。」
とゴールドにしては精一杯のひそひそ声で聞く。
「何がよ。」
「何がってお前、土曜っつったらいきなりのアレだろ、ナイトとの。」
「ああ…」
「ナイト言ってたぞ、お前に置き去りにされたって。俺もう驚きでさ、だってあいつだよ?ナイトだよ?思わず俺のこと話してんのかって思っちゃったんだけどよ。」
ゴールドらしい気遣いなのか、話が微妙に逸れていく。
「別に置き去りになんか。」
「あーやっぱそうだよな?お前が恐れ多くもあのナイトと出て行っただけでも大ごとなのに。やっぱありえねーよな。待てよ、でもだったら何であいつそんなこと言ったんだろう?」
自問自答し始めるゴールドを放って、廊下に出る。二三歩行ったところで、やかましい声が追いかけてきた。
「おい、待てって。お前ねえ、きちんと答えもしねえで勝手に行くんじゃねーよ。おう、ナイト、俺今こいつ問い詰めてんの。」
ナイト?なんでその名前、呼びかけてんの?
微かないつもの香りがしてくる。背中が固まる。
「やめろって。問い詰めるようなことじゃないし」
上から降ってくるその声。心の底が温まるような。
「だってよー、天下のナイトが頭抱えてんじゃん、しかもこいつごときで。だから俺が成敗してくれよーかって」
「私は化け物か!」
クックッと笑い声がする。良かった、この人が明るく温かな人で。でもやっぱりそれだけの事だったんだなあ。私にとっては一大事だったけど、あの人にとっては単なるエピソードの一つでしかない。ウォークマンと一緒だね。
「じゃね。」
軽く手をあげて私はトイレに向かう。泣きそうだから、また。ナイトに関しては私は本当にダメだ。全然用をなさない。すぐ泣きたくなる。私の理性どこ行った?
「ナイト、あんなんで良いの?お前結構本気だったんじゃね?だって今までお前が女に連れられて中座することはあったけど、自分から俺らほっといて出てくってなかったじゃん。土曜は俺心底驚いてさー。あーゆー時に使うの“泡食っちゃった”って?」
「あーそーだよ。お前はずっと泡食ってろ。」
チャイムに救われた。俺が一体どう感じてるのか言わなくて済んだから。早く教室に戻らないと、次は確か鬼のビー部顧問、神ちゃんの授業だ。
あいつは一体どうしたんだ?ブルーを連れ出した時は何が何だかさっぱりわからなくて、残された俺ら全員ポカーンとしてた。ものの1分は確実に。で、その後は大騒ぎで。誰もが答えを知りたいのに誰もそれを持っていない状態で。でも何だかむずがゆいような嬉しい気持ちが充満してきて、みんなでいつまでも喋っていた。俺なんかボルケーノもう一つ注文しちゃったもんな。でも結局俺はブルーからもナイトからも答えを聞けてなくねえ?たった今二人と喋ってたってのに。いてっ。
「おーい金子ー。ポーズでもいいから教科書くらい開け!」
ちきしょー、金ちゃんのチョーク命中すんだよなあ。何でだろう、サッカー部顧問なら足だろう、普通。まあさすが俺とタイはってる良い名字なだけあるな。あとでナイトに怒鳴っておこう。
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