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07.紺野亮二
娘たちというのは、ある日突然花開くものなのなろうか。
見たことのないような表情をしたり、驚くような意見を言ったり、かと思えばこちらを労わってくれたりする、出張続きだったりすると特に。まりの方はそれでもまだ幼い時の顔が重なるが、麻の方は、最近はこれが本当に「パパパパ」と言って追いかけてきて、転んでは大泣きしていたあの麻と同一人物とは思えないほどだ。
朝7時、慌ただしく朝食を済ます。派手な音を立てて、まりが席につく。まりが来ると余計に慌ただしい。
「あーん、また寝坊しちゃった。お姉ちゃん、起こしてよー。」
寝ぐせがひどい。うちの末娘はいくら寝ても寝足りない。小さな時から。
麻が涼しい顔で、
「いい加減スヌーズ押すの止めなよ。スヌーズ機能の無い目覚まし時計買ったら?」
と言いながら、コーヒーを注いでやっている。こちらはいつ見ても、ポニーテールが高い位置できちんと結ばれている。
「あら麻、珍しい、今日はネイビーのリボンじゃないのね?」
「うん、今日は勝負リボンで行く。」
とそれがそうなのか、銀色の細いリボンを揺らす。
「そうか、あんたたち今日から期末だもんね。よっしゃ気合。」
妻の方がよほど気合が入っているような野太い声を出す。
「お姉ちゃんはさー、勝負リボンなんていらないじゃん。どうせまた一番でしょ。私に貸してほしいわ、そのリボン。」
ともじゃもじゃの髪の毛を振りながら、まりが言う、
「いや、それが今回の物理はまずいかも。だからリボン頼み。」
「珍しいな。」
ここでようやく口を挟める。うちの女性陣の会話には、滅多に口を突っ込めない。あっという間に話題が変わるし、しかもそのいちいちに3人が自分のコメントを挟むものだから、こちらの出番なんて皆無に等しいのだ。しかもたまの発言も、なんとなくズレているような気分にさせられるし。
「うん、でも大丈夫。」
サラダを口に運びながら、麻はいつもの落ち着いた声で答える。この子は大抵こうだ。自分で決めてやり抜く。こと勉強に関しては、一度も「勉強しろ」と言ったことがない。言う時がないのだ。なんというか、既にやっていることが多いし、そうでない時には自分の計画がきちんと立っていて、それに沿って動いているからだ。
「うわーん、羨ましい。私も一度で良いからそれ言ってみたいー。」
とまりが泣く。
「お母さんも一度で良いから聞いてみたいー。」
と妻が身をよじる。あははとみんなで笑い合う。うちの騒がしい愛すべき女性陣。
今日も君たちのために、一生懸命働いてきますよ、お父さんは。毎日の思いを今日も胸に、熱いコーヒーを飲みほした。
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