10.12月

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10.12月

吐く息が白い。 澄み通った冬の空気が肺に行きわたる。こめかみが寒さで少し緊張する。でも全身が冬に染まったようで気持ち良い。登校日が少なくなって、学校に行ってもみんなに会えなくて、全然今までみたいじゃなくなった気持ちを何とかしたくて、前にリレーの練習で走ったコースを走っている。みんなどうしてるかな。頑張ってるかな。あんなに頑張ってきた部活ももう引退だし、青南生活だってあとわずかだもん。目の前には受験、ただひたすら受験。入試が終わったらあっという間に卒業だ。大切だった高校生活を終える時間をゆっくり過ごしたいのに、現実には駆け足だ。息が上がってきて、陸橋で一息つく。 そういえば、ここで「半月」ってナイトが言ったんだよな。もうずっと前に感じる。やっぱり自分の分ってあるよね、お母さん。伝説のナイトなんかを好きになっちゃったのが、そもそも身の程知らずだったんだ。「男の人は本気になれば自分から追いかけてくるものよ。」小さい時に聞いたお母さんの声が響く。だよね。ナイトなんて、当たり前だけど、全然追いかけてなんて来てくれなかったよ。でもやっぱり好きだったなあ。あの深い黒の瞳。キラキラ光る金色の笑顔。高いところから降ってくる、心に沁みとおる温かい声。紺野さんって呼んでくれて、時々こちらを見てくれる、少し微笑んだような表情。一緒に出掛けたかったな、たまたま声をかけてくれただけだとしても、本当に。勝手にひねくれてめんどくさくなって、まるでナイトに当たるみたいに。めちゃくちゃだったなあ、私。でもそんなでも、ナイトは何も変わらない。それくらい私の存在なんて、何でもなかったんだよね。ちっぽけな私の、でも大切なプライドは傷ついて雪の塊くらいになっちゃった。冬の夕風に涙が飛んでいく。とても大きな真っ赤な夕日が沈もうとしていた。 出来ることなら、卒業式にはナイトに謝りたい。受験を頑張ってそして謝ろう。夕闇が迫りくる中、心に誓った。
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