02.4-5月

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02.4-5月

「うへえ、俺お前の名前ダメだわー。」 これが、あいうえお順で一緒の班になった、金子歩の最初の一言だった。無言でにらむと、 「だって紺野の紺の字って青、ブルーだろ?で、麻ってあさ、モーニングじゃん。俺。朝ってサイコーに苦手でブルーなわけ。だからさ、お前の名前マジでブルーになんだよな。」 「訳わかんないんだけど。それに麻って漢字違うし。」 「俺お前のこと、ブルーって呼んでいい?ほんとならダブルブルーでBBとか呼びたいことだけど。あ、ちなみに俺はゴールドね。金子の金。」 私の言う事を何一つ聞かずに、金子は喋り通した。勝手に言ってろ、と思ったけど、意外にこいつの発言権はクラスで大きく、以来私のあだ名は「ブルー」になった。勿論金子はゴールドで。最初のうちはこの班で分けられることが意外に多く、私とゴールドはいつの間にかよくしゃべるようになっていた。それに友だちが出来た。やっぱり班で一緒になった仲良し3人組の鎌田梨奈(かまたりな)(さかき)まゆみ、島田友香(しまだともか)だ。まゆみと梨奈は同じ中学出身、友香は私立から入ってきた変わり種だ。担任は物理の田部島(たべじま)先生。物理か、面白いのかな。 「おーい、お前ら、部活の締め切り明日までだぞ。決めとけよ。」 HRの終わりかけに田部島先生がひときわ大声を出した。 「ブルー、何にする?」 仲良し3人組のひとり、梨奈が顔を寄せてくる。 「私は卓球部。」 「へっ、また何で?」 「何でって、私中学でもやってたから。」 「うっそ。」 「いや、嘘じゃないし。」 「何で?」 「あんた、さっきから何となく失礼なんだけど。卓球は頭も使うし、細かな技が必要だし、あれで運動量もバカにできないんだからね。」 「ああ、はいはい。」 鼻で返事をされている。 「じゃあ梨奈は何にするのよ?」 「私?まだ決めてない。」 「だって明日だよ、締め切り。」 「うーん、そうなんだけど。決めてなかったら、田部島、帰宅部で良いって言わないかなって、それ狙い。」 「マジ?でも田部島先生、全員部活入れって毎日言ってるじゃん。無理そうだよ、梨奈作戦。」 「だーねー、なんか先生熱いんだよねえ。」 そこまで話したところで、バカでかい声が教室の向こう側から飛んできた。 「おーい、お前ら部活、何にすんの?」 ゴールドは廊下側に座っている。私たちは窓側。 「ブルーは卓球部だってさ。私は帰宅部狙い。」 二人でゴールドの方へ歩きながら答える。 「へーっ、またそんなマイナーな。」 「どっちがよ、卓球部、それとも帰宅部?」 「そ、そんなに凄むなって。お前白目剥いてるじゃねえか。」 「失礼な。ちゃんと見えてるし。で、どっちがマイナーなのかって聞いてんのよ。」 「やばいよ、ゴールド。卓部のことになると、ブルー、頭に血が上るみたい。黙っときな。」 「お、おう。まあちっこい球ったって、れっきとした球技だしな。」 「黙れ、ゴールド。」 「ほらあ、ブルーもそんなムキにならずに。で、ゴールドあんたは決めたの?」 「俺、俺はもちろんビー部よ。」 「ビー部?」 「おう、ラグビー部。高校生になってやっと本格的に出来るからさあ、もう俺嬉しくて。」 「ビー部?ああ、あのむさくるしさがあんたにお似合いだわね。」 さっきのお返しにくさしてやる。 「お前、ラグビーは紳士のスポーツなんだぞ。あ、そうだ、マネージャー募集してるって先輩言ってたわ。島田、帰宅部よりマネやってみたら?」 「えー、ラグビー部のマネ?サッカー部ならなあ。」 と梨奈が溜息をつく。 「サッカー部?梨奈、サッカー好きだったっけ?」 「いや、どっちかってば、サッカーやってる人っていうか。」 「あー、お前もか。あれ?なんだっけ、“シーザーお前もか”、かなんかあったよな。サラダみてえな。」 「は?ブルータス。“ブルータスお前もか”よ。言ったのがシーザー。」 「まあそりゃどうでも良いんだけどさ、サッカー部は今季のマネージャーはもう締め切ったらしいぞ。」 「へ?だってまだ5月だよ?」 「あー、やっぱそうか。出遅れたな。」 梨奈が悔しそうに言う。そこでチャイムが鳴った。だから、何でサッカー部のマネージャーはもう締め切られたのか、結局聞けずじまいだった。
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