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交わる世界
「見えてきたぞ、黒の世界」
地平線の向こう側に漆黒の闇に覆われた空が、静かに、少しずつ向かってきていた。
青と交わる境界線が徐々に赤く染まり、広がっていくのが見えた。
かつての地球であれば、夕刻の時。
「懐かしいな、この色……」
高台には人々が集まり、双眼鏡を片手に持つ人、カメラで歴史的瞬間を撮影する人、早くも身内の姿を探す人でひしめき合っていた。
郷愁を誘う柔らかな彩りの情景に、祈る者、涙する者もいた。
「見えてきた! 青の世界!」
暗闇の中で、どよめきが広がった。綺麗に澄み渡った群青色の空に浮かぶ雲。白い灯を求めて、人々は手を大きく上げて、その雲を掴もうとしていた。
やがて二つの次元は重なり始め、大きな空のキャンバスにグラデーションの色彩を描き出すと、一面をインクで滲ませたように赤色に染め上げた。
中央で大きな太陽が沈む、夕焼けの空。
赤と青と黒がマーブル状に交わりながら広がっていった。
春樹も友人達とその風景を眺めに訪れていた。友人の一人が指を差して、大きな声で叫んだ。
「おい、見ろよ。人だ! 人がいる!」
「本当だ! 黒の世界の人だ……会える、会えるぞ、家族に!」
その声は次第に大きくなり、皆が一斉に下り坂を走りだした。
「春樹、行ってみようぜ」
「あ、ああ」
春樹達は、雪崩れるような人の波に揉まれながら、下っていった。
やがて黒の世界の人々の顔が見えてくると、歓声の声が上がった。
「久しぶり!」
手を振り合いながら近づき、対面するとお互い強く握手を交わした。
「あなた!」 「裕子!」 「隆一!」 「お母さん!」
やがて青と黒の世界に分かれて、離ればなれになっていた家族が、続々と再会を始めていた。
しかし押し寄せる人々の勢いは徐々に増し、ぶつかり合う人ごみで、もみくしゃになり、転倒する人も出てきた。
「きゃあ!」
春樹は、犬を連れた一人の女の子が倒れるのを見かけた。
その女の子に視線を向けると、彼女もまた春樹に目を向けた。
――あ、きな?――
春樹は人波をかき分けながら、歩み寄り、女の子の手を取った。
「秋菜!」
「……春樹?」
「こっち!」
手を引き上げると、人ごみから守るように秋菜の両肩を抱え、少しずつ道の外れまで逃れていった。
ハルはすぐその後ろをついて歩いた。
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