40人が本棚に入れています
本棚に追加
公園の二人
人通りが少なくなった街はずれの公園で、二人はブランコに腰かけた。ブランコを揺らしながら、しばらく沈黙が続いた。
幼い頃の面影を残しつつも、成熟した秋菜の肢体のしなやかな線に、春樹は目のやり場に困っていた。
「……久しぶりだね」
「うん……春樹も元気だった?」
…… ……
「あの!」 「あの!」
話すタイミングが重なってしまったため、春樹はどうぞと手で差し伸べて、先を譲った。
「あの、何の挨拶もせずに別れてしまって……ごめんなさい」
「いや、秋菜はしょうがないよ」
「誰とも話せない私といつも仲良くしてくれて……うれしかった」
「違うよ、そうじゃないんだ。それは僕が……」
“君をっ”と言いかけたところで、春樹は口を噤んだ。
…… ……
「その犬、どうしたの?」
「私病気でね、次元不適合障害って言って、このワンちゃんがいないと、黒の世界で生きていけないの」
「ふうん、名前は?」
「……ハル」
「その名前って……」
…… ……
「こうしていられるのも、あと一日だね」
「うん」
「僕さ、父親の研究でわかったことなんだけど、特異体質でさ、青の世界、黒の世界、どちらにも適正があるらしいんだ」
「……」
「今度は黒の世界に行くのもありかな……なんて思ってるんだけど」
「……」
「どう思う?」
「……」
「秋菜は……寂しくない?」
「私は……」
言えなかった、それはとても勇気がいる言葉だった。言った途端、すべてが壊れてしまうのが怖かった。
「僕は……秋菜と一緒にいたいなと思った」
「どうして?」
「それは……」
春樹も言えなかった、そんなに簡単に言える言葉ではなかった。ただ気持ちを伝えたいという想いだけが積り積もっていた。
細い糸に手繰り寄せられるように、二人は顔を向け見つめ合った。
お互いを優しく包み込む眼差しは、くすぐったい、胸がほのかに熱くなる感触だった。
でもだからと言って、どうすることもできない……住む世界の違う二人。
「そろそろ家に帰ろうか」
「うん、たぶんお父さんが待ってる」
「いつか、みんなが一緒にいられる日が来るといいな」
「そうね……春樹と会えるのも、また五年後かな? その時は……もう私なんかに会ってくれないよね?」
秋菜は寂しそうな笑顔で、春樹に問いかけた。
「たとえ五年後でも僕は必ず君に逢う。君を待っている」
「……ありがとう」
――ウォウ!――
最初のコメントを投稿しよう!