別れる世界

1/1
前へ
/13ページ
次へ

別れる世界

 翌日、再び青の世界と黒の世界が分かれる時がやって来た。  人々は別れを惜しみ、互いの温もりを忘れないよう、強く抱擁を重ねた。五年という長い歳月が彼らの繋がりをさらに強いものにしていた。 「それじゃ、お父さん、元気でね」 「ああ、母さん、秋菜、元気でな」 「あ、忘れ物」  そう言うと、母親は父親の頬にチュッと軽くキスをした。  またもや顔を赤くした父親は、大きく手を振りながら家を後にした。  二つの世界が分離する際、次元が不安定になるため、それぞれの安全地帯まで退避する必要があった。そのため、父親は家を離れなければならなかった。 「もうすぐ青の世界とお別れね……秋菜、春樹くんに挨拶は行かないの? もう時間ないわよ?」 「うん、でも私こんな体だし、彼と話したからって、どうにもならないし」 「もう会えなくなるのよ?」 「……私は」  ――春樹と一緒にいたい――  ――まもなく次元分離が開始されます。住民の皆様はそれぞれの安全区域まで退避をお願いいたします――  街に設置された屋外拡声スピーカーから、緊急放送の音がこだましていた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加