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君が望むストーリー
―――時々、考えたことがあった。
―――もし自分の書いたキャラクターが目の前に現れたら、ということを。
綴(ツヅル)はクリエイターを目指す大学生。 投稿しているWeb小説の閲覧数が伸び、少しずつ名前が売れ始めている青年だ。 大学が午前で終わり家へと帰る。
綴が住んでいるマンションの前で、友人の四音(シオン)と別れると自分の部屋へと向かった。
―――流石に、もういないよな・・・。
現実でもフラグが経つということは往々にしてある。 鍵を開け部屋へ一歩足を踏み入れると、恐る恐る口にするのは定型的な帰宅文句。
「・・・ただいま」
一人暮らしをしている綴に返事などあろうはずもなく、あればそれは悪質なストーカーか頭のいかれた殺人鬼。 そのようなことを考えるのは綴が小説書きであるからなのだろう。
「あ! 綴、おかえりー!」
「・・・」
それでも返事がある可能性があることを知っていた。 奥へ進むとテレビゲームをしている水色の髪をした一人の少年。
現代日本に似つかわしくない容姿を持つ彼は、コスプレしているのではないかと思う程だ。
「シエル、まだここにいたのか」
「もちろん! というか綴、聞いてよ! 綴が大学へ行っている間、ずっとシューティングゲームをしていたんだけど、僕物凄く上手くなったんだ! ほら見て! 綴の最高得点を抜かしたんだ!」
そう言って画面を見せてくる。 キラキラと嬉しそうに目を輝かせるシエルを通り過ぎ、テレビのコンセントを抜いた。
「あ、ちょっと! 何すんのさ!」
反発するシエルに綴は向き直った。
「お前がここへ来てから今日で三日目だ。 一体いつまでいる気なんだ?」
「だから、僕の幼馴染が死なないストーリーに書き換えてくれたら、大人しく帰るって何度も言っているじゃん!」
「だったら俺も何度も言うけど、それはできないって言っているだろ!」
「どうしてできないの!?」
「俺たちは平凡でつまらない日々を過ごしているんだ。 刺激を求めるために、本やらアニメやら映画やらの有り得ない世界に浸りに行くんだよ。 だからお前の世界はそれでいい」
「そんなこと知るもんか! その平凡でつまらない日々が僕にとっては羨ましいよ! 僕が出ているアニメが完結してからもう半年。
僕の周りは幸せそうに過ごしているけど、僕は毎日死んだ幼馴染を思い出して夜な夜な一人泣いているんだからね!?」
「はぁ? 平凡でつまらない日々を望んでいるだって? そんな面白味もないストーリーを書いて、誰が読むって言うんだよ!」
そう言うとシエルは頬を膨らまし言った。
「・・・じゃあいいよ。 綴の今日一日のストーリーを、僕に見せてくれる?」
「俺のストーリー? 俺が過ごしている一日っていうことか?」
「そう! 平凡過ぎてつまらないから、刺激がほしいんでしょ? 僕が綴の一日を見て本当にそう思ったのなら、大人しく元の世界へ帰ってあげるよ」
「・・・本当に帰ってくれるんだな?」
「もちろん!」
「・・・分かった」
シエルは外へ出すと危険なため、ずっと部屋の中に閉じ込めていた。 周りの目もあり気になるところだが、このままでは大人しく帰ってくれない。 というわけで仕方なくOKを出すしかなかった。
するとシエルは突然思い出したように言う。
「あ、そうだ! 今日、彼女の彩未(アミ)さんと夕方からデートだったよね?」
「人の電話を勝手に聞くなよ」
「僕ももちろん付いていくからね! あ、でも僕のことはいない感じで適当に放っておいてくれていいから!」
そう言って早速とばかりに外へ出ようとしたところを慌てて引き止めた。
「あ、おい待て! その恰好で行く気かよ!? お前の恰好は、この世界だと普通ではないからな?」
シエルは魔法使いであり、大きな黒ローブを羽織っていた。 別にそれをどうこう言うつもりはないし、個人的には嫌いではなかったのだが、外を歩くには目立ち過ぎる。
「んー? でもこの格好は、綴が考えたものなんでしょ?」
「そりゃあインパクトがあるからな。 とりあえず戻れ、俺の服を貸してやる」
「わーい! 綴の服、動きやすそうだし気になっていたんだ!」
とりあえず下はジーンズに、上は灰色のパーカーを着させた。 これで服装は問題ないだろう。 次はシエルの瞳に目を向ける。 いわゆるオッドアイというもので黒目と青目が左右で分かれていた。
「お前の目の色は左右違って派手だからな・・・。 サングラスでもかけてくれ」
サングラスをかけさせ全身を眺めれば、何とか誤魔化しが効いたと言える格好に思えた。 だが不安がないと言えば嘘になる。 それはこの三日で重々感じていた。
それでも放っておけば何をしでかすか分からないため、準備が整うとドアを開き辺りの様子を確認した。
「よーし! 綴の一日の冒険に出発だ!」
シエルとは本来綴が書いたストーリーの主人公。 つまり小説のキャラクターである。
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