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綴はひと息つくとノートパソコンを閉じた。
「まぁ何度も言うが、今言ったのは全て俺の意見だ。 クリエイターはそれぞれ持っている意見も文章の書き方も違う。 だから色々な作品が生まれて面白いんだ」
「・・・」
「シエルの世界では、作られた物語が書いてある本ってなかったか?」
「分からないけど、僕は見たことがないよ。 古くから伝わる古代のことや、魔法について書かれていたりする難しいものしか知らない」
「そうか。 だったらクリエイターにも色々な人がいるって言っても、いまいちピンとこないか」
それにシエルは頷く。 だがまだ納得していないような顔だったため提案してみることにした。
「・・・分かった。 幸せなストーリーしか書かない人と、不幸なストーリーしか書かない人だったら、どっちの人の意見を聞きたい?」
「幸せなストーリーを書く人! だって綴によると、幸せしかないストーリーってつまらないんでしょ? なのにどうして悪いことは書かないのか、気になるから!」
「分かった」
綴は携帯を取り出した。 シエルはそれを物珍しそうに見つめる。
「何それ?」
「あー、これも小さなパソコンみたいなものだよ」
「へぇー! 小さいッ!」
綴は心当たりのある相手に電話をかけ、今からそちらへ向かっていいか尋ねた。 どうやら小説を書いている最中のようだったが、区切りがつきそうということで受け入れてくれた。
「分かった、ありがとう。 じゃあ今から向かうから、また後で」
許可を得て電話を切るとシエルが尋ねる。
「誰に電話? もしかして彼女の彩未さん?」
「違うよ。 天那(アマナ)さんという名前で、彩未の友達だ。 今から天那さんの家へ向かう、付いてこい」
天那は同じ大学の同級生だ。 歩きながら天那のことを伝える。
「天那さんはさっき言った通り、幸せなストーリーしか書かない人なんだ。 だから彼女に色々聞いてみるといい」
「分かった!」
天那の家まで着くとインターホンを押すと、待っていてくれたのか待つこともなくすぐに姿を現した。 よくよく思えば二人であることは伝えていない。
電話口であっても、他の人が聞く可能性のある場所でシエルのことは話したくなかったのだ。
「綴くん、こんにちは」
「おう。 急に押しかけてしまってごめんな」
「大丈夫、丁度区切りがついたから。 えっと、そちらは・・・?」
そう言ってシエルの方を見る。 明らかに怪し気な雰囲気を出していれば気になるのは当然だ。
「あー、コイツは・・・」
―――ずっとフードとサングラスをしていたら失礼か。
そう思いフードとサングラスを一気に取った。 それには見た目から一瞬で日本人ではないと示す効果もあった。
「うわッ!」
「コイツは海外の俺の友達。 小説家を目指しているんだ。 だから天那さんの物書きに対する心得とか、色々と教えてやってくれないかな?」
「私でいいの?」
「あぁ。 たくさんの人の意見を聞かせたくて」
「そういうことなら。 さぁ、上がって」
「わーい! お邪魔します!」
そう聞くとシエルは早速とばかりに家の中へ入っていく。 あまりの子供っぽさに綴は呆れ溜め息をついた。
「綴くん、彼の名前は?」
「あー、シエルって言うんだ」
「シエル?」
その名を聞き天那は思いついたように言った。
「・・・あ! 思えば、綴くんが書いた小説にも、あの彼のような容姿の子いたね。 確か、その子の名前もシエルだったような・・・」
その言葉にギクリとする。
「あー、あぁ、よく憶えていたな。 アイツは俺のファンみたいで、アレはシエルのコスプレだ。 よくできているだろ?」
「コスプレだったの!? 本当にクオリティが高い!」
「アイツ、シエル本人になりきっているみたいだからさ。 だから“シエル”って呼ばないとすぐに怒るんだ」
「そういうことだったの。 なら私もそう呼ばせてもらおうかな」
何とか誤魔化し二人は家の中へと入っていった。
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